自分たちのペースを守りながらも、確実に現在の日本のダブ/レゲエ・シーンを牽引しているリトル・テンポとドライ&ヘヴィー。5月、そして6月と期せずして両バンドともニュー・アルバムをリリースする。互いのサウンドへのこだわりなどについてアンケートをした。

-Little TempoとDry & Heavyへの共通アンケート-

●Q1. 正式メンバーとそれ以外のメンバーとを、どう区別しているのですか。
Little Tempo(Tico):音楽をプレイする時にメンバーの区別などありません。ただ、他のグループやセッションなど、それぞれのメインワークがあるので、リトテンにはサポートとして参加してもらっています。
Dry & Heavy(Nanao a.k.a. Dry):ドライ&ヘビーは、正式メンバーといってもドラム&ベースのコンビなので、特に区別をつけなくても結果的に担当楽器の役割別。あえてコンビなのは、ドラヘビ二人の目の赤いうちは、どんな事があっても活動を続ける事ができるから。

●Q2. 器楽曲(インストゥルメンタル)とヴォーカル入りの曲の差異について、グループ内でどう納得しているのですか。
Little Tempo:楽器や人の声、さらに子犬のオシッコする音、小川のせせらぎなど、全て聴こえてくるのは音なのです。
Dry & Heavy:アルバムの場合は内容のバランスが重要だと考えている。

●Q3. 器楽曲とダブの差異について、明確な区別をしていますか。その違いはどのようなものでしょうか。
Little Tempo:ダブの定義は人それぞれですが、自分達の表現全てにダブが含まれていると思います。
Dry & Heavy:Q2と同じで、今までのところはそれぞれを混在させた形で色々な楽しみ方ができるものを目指してきた。現状では、あれこれ制約を設けて窮屈になるよりは、歌や楽器演奏、録音、ダブ処理、バンドならではの面白さなどを楽しんでやっている。色々なアイデアはあるが、それぞれの可能性は今後の活動で評価してほしい。

●Q4. エンジニア(特に内田氏だけを指しているわけではありません)の重要性をどのように認識していますか。
Little Tempo:演奏する人、ミキシングする人、共に同じプレーヤーだと考えます。
Dry & Heavy:バンドの演奏に対して、絶対に正解なたったひとつのミックスというものはありえないので、それぞれのエンジニアの音を楽しめるのは、とても良い事だと思う。ドライ&ヘビーではエンジニアは内田君以外とはやっていないが、今までの作品は、単にエンジニアとしてではなく、日常でも良き友人であり、ドライ&ヘビー・コネクションのメンバーでもある彼なしには考えられない特殊な状況下で製作されている。音を素材としてとらえた純然たるダブという事であれば、演奏者とは違った理解力が必要になるが、その点でも客観的にみて内田君は優れたダブ・エンジニアだと思う。それと同時に、良い演奏をそれにあった良い音で録り、それをミックスする事もできる人なので、曲単位で焦点をしぼる現在のドラヘビのやり方には、最適なエンジニアだと思う。

●Q5. ジャマイカの本物のレゲエと、あなた方グループの音楽との、最大の違いは何ですか。
Little Tempo:大きなサウンド・システムと太巻きガンジャ、小さな居酒屋とだし巻きタマゴ。
Dry & Heavy:血中ヤーマン度数。

●Q6. グループのセールスポイントは何ですか。
Little Tempo:ビジュアルだと確信しています。
Dry & Heavy:メンバーそれぞれの魅力と、演奏力の高さ、それが一体となったバンドの味。しかし、レゲエ/ダブの魅力や、スリルを固定バンド・メンバーだけでは語りつくすことはできないと思うので、ドラヘビ二人の生み出すリズムと、今まで妥協せずにやり続けてきた誇りをもとに、今後の可能性として様々な出会いを求めている。

●Q7. 互いのグループについて、リスペクト、友情、ライバル心など、思っていることを%で表わすとどうなりますか。
Little Tempo:数字で友達を評価する事はできません。
Dry & Heavy:いかす連中 90%、もててるのかなぁ? 10%。


 リトル・テンポというグループ名が、どうしてミュート・ビートのもじりになっているのか、その理由は知らない。きっと東京西部、国立市周辺のバンドだから、自然にそうなったのだろう。ドライ&ヘヴィーの方は、その名がバーニング・スピアのアルバム・タイトルに由来するのは、レゲエをある程度聞き続けてきた者ならわかるが、実はあの「スライ&ロビー」と完全に韻を踏んでいるのは意識されたものなのかどうか。そんなことはどうでもいいが、今年の2月に彼らは共にホレス・アンディの東京公演のフロント・アクトを担当した。リトル・テンポ(以下LT)を見るのはそろそろ10回目になるかも知れず、ドライ&ヘヴィー(以下D&H)のライヴは僕にとっては初体験だった。

 その両者が共に新作アルバムを発表する。前者のが『LTミーツ・ヴォイシズ・オブ・フラワーズ』、後者は『フル・コンタクト』である。既に知られた事項ではあるけれど、エンジニアの内田直之は両グループに共通した、平たく言えば二股を掛けている存在。また『フル・コンタクト』の2曲にLTの土生剛が共演している。

 アンケートの答えを見ればわかるが、敢えて説明するならば、両者に言えるのは、性格は違うがスタンスは近い、ということだ。逆だと困るが、これなら友好関係にあるのもわかる。それこそ二股掛けてるファンならば、互いの答えがそっくり入れ替わっていても、何の問題もない、つまり全く同じ答え方をしていることに納得すると思う。D&Hが「状況下」とか「今後の可能性」とか、(ここでは)ベタな返事をしているに過ぎない。

 LTの新譜は、前作『ロン・リディム』から3曲をピックアップして、それぞれに表題の通りヴォーカルを再発注。各ダブを含め4トラックずつ、計12曲入りの新装開店である。リミックスではなくリテイクに近い感覚、と本人たちが言っているように、前からのオケにただ歌を乗せさせただけでもなければ、あの曲のダブをまた聞かされるのかよ、という不満も出ないだろう、多分。それより歌が付いたことで全く変ってしまった曲の表情、ダブの位相の差異に驚くのではないか。まずリンダ・ルイス、フレッシュ・ファンキー4、トリオ・エスペランサという三組の選択が絶妙なのだ。前号でサイモンはリンダを70年代のディスコ・ディーバと紹介したが、彼女はアシッド・ジャズ世代に再評価された黒人のフォーキーなフリー・ソウルSSW。73年からヒット・シングルがあり、74年にはもう来日していた。彼女の入った「ディスタント・アイズ」は『ロン・リディム』の中でも人気の高かった「フロスティ」に被せたもの。これはグルーヴィな仕上げだが、FF4のはストレートかつ、中ではレゲエ度高し。3エスペランサはブラジルのコーラス隊で、そのポーチュギーズがリゾートでおシャレに聞こえるかも。ただし僕は、バラライカ奏でるロシア民謡みたいなスティール・パンが出てくる瞬間、アリエヌ共和国の住人になるのだ。


 レコードと全然違うじゃん、それがライヴの第一印象だったD&H。良い意味でポップ、おチャメ度高くてキャラの立ち具合いはネオGS級では? 本人たちはシリアスな音楽をクリエイトしているつもりだろうが、ジャケットには黄緑やピンクでも使って、もっと派手に売れて欲しい連中だと思ったのだ。3作目に当る今回のフル・アルバムは、リックル・マイ3曲、井上青2曲、ダブ=器楽曲6の計11トラック。この所、限定7インチが出ていた「ドーン・イズ・ブレイキング」や「ラヴ・エクスプロージョン」も収録されている。僕が特に気に入ったのは、終盤9曲目からの3曲。こういう策略の何もない曲が好きというのは、前言と矛盾しているかも知れないが、ある意味でここの流れはLT的と言えなくもない。D&Hらしさなら、青がステージでも歌った「ランブル」や、キュートなマイのシングル曲「ラヴ・エクスプロージョン」なのか。「チェリー・オ・ベイビー」調のオープニングも、「ナイフ」、「ライフ・オブ・ザ・ジャングル」辺りも悪くない。ただ僕は「アルバムの場合は内容のバランスが重要だ」などとはこれっぽっちも考えない。D&Hにはもっとブチ壊れて見せて欲しい、とすら思う者である。LTの女性ファンは急増しているけれど、特にモテてもいないみたいだから、D&Hの方で大いに盛り上がって頂きたい。以上ヤーマン昇、練馬からのリポート。