ジャマイカ人の好みが変わった。一昔前のDJは、砂利のような声にラフな風貌、ゲットーの看板を掲げたストリート産、と相場が決まっていた。ファンは男ばかりでダンスホールは男社会、女のコはといえば、目を覆うばかりのSkin Out(肌の露出)ぶり、男のコに負けずとも劣らぬ迫力で、周りを圧倒した。DJは、いかにバッドであるかを競い合っていた。

 そのダンスホール界に、セックスシンボルの誕生である。Lexxus、ダイアモンドの似合う男(※注:この号が出る頃には、新しい芸名に改名しているはず。執筆中に名前変更が正式に発表されていないので、Lexxus表示でお許しを)。バレンタインにはガールフレンドにダイアモンドを贈ったという。ジャマイカ中の女のコが羨ましがったよ。
 Kiprich、思えばダンスホールで「かわいい」という形容詞の似合う初めての男のコ。今までになかったトレンド、「清潔感」も持ち合わせている。ショーン・ポール、アップタウン出身のハンディ(?)はもはやない。超猫ばりの声に鍛えられたバディ、異国情緒漂うルックス。どことなーくラテン的なのが、今っぽい。DJと聞けば眉をひそめた山の手のお母さんが、新しいセックスシンボルに茶の間で娘ときゃあきゃあ言うって図も珍しくない。変わったのは勿論、DJばかりではない。最近は、どこに行っても女のコがかわいい。華奢で小顔、持ち前の短胴長脚に拍車がかかり、ブランドネームのお洋服が良く似合う。ダンスホール名物だった恐いお姉さん達が少なくなった。ダンスホール・クイーンも変わった。新しいダンスホール・クイーンは、ステイシーというモンティゴベイ出身の女のコ。彼女のダンスは必見。そろそろ女のコのアイドルがほしいなあ。

 それに伴い、スラングも変わった。太った女性を指す「マンピ」や「バンバー」なんて言葉は死語になった。ケーブルTVの普及が、これらの現象を生んだのだろう。以前は上流社会のステータスである衛星放送のみだったが、今では各家庭当然のようにケーブルTVが設置されており、アメリカの放送を24時間40チャンネル程見られる。アメリカのミュージック・ビデオ、ドラマ、アニメ等がオンタイムで見られ、最新流行のファッションや音楽、風俗が解りやすくなってきた。最近は、スラングの回転も速い。去年の流行語「Shotta(シャタ)」もすたれた。ここで少し、新しいスラングを紹介しよう。

●Bashy(バッシー)=「バッシュメントガール」などと使われた「Bash」を形容詞的に表現した言葉。新しくてかっこいい、目立った、などの意。
●Bling Bling(ブリン・ブリン)=Hotta Flex Crew同名のヒット・チューンでお馴染み。良いものすべてに使われる。バッシーで高価なもの、人。パトワの「クリス」と同義語でも使われる。

●Nananah(「なななー」と一音ずつ上げていく)=キリスト教徒になり、暴力事件を起こし、スケア・デムを脱退し、と話題も絶えず交流も広いハリート・ドラーが発信元の流行語。ビーニの「オーララ」同様意味はなく、「じゃじゃじゃー」でも「ちゃちゃちゃー」でもよし。これを適度に使うと、なんとなく元気が出る。

●Bun A Fire=ジャマイカに蔓延する不正や不徳義なものを燃やしてしまえとするラスタ系DJのメッセージ。ケイプルトンが放つ「More Fire」「Slew Dem」などもこの一連。今年2月、ジャマイカはボブ・マーリーで盛り上がり、島は一時的にワン・ラヴ・モードとなり、Fireスローガンは暴力的すぎるとバッシングされた。又、ショー会場での暴力事件、加えてファンが使用する発火スプレーの燃焼などが問題となり、ケイプルトンの煽動さが問題にされた。ジャマイカもそろそろ夏、ファイアー関係のスラングは暑苦しくなってきそうだが、「Yew, Fireball」「Alright, Fire」等と日常会話の挨拶言葉にまで登場するほどに浸透している。

●Mr.Faggoty(ミスター・ファゴティ)=ホモセクシャル、バティマンの同義語。ボンティとシャムの「アナザーレベル」に「Bun A Fire Pon A Pope And Mr. Faggoty」というフレーズがある。Popeはローマ法王。ジャマイカのキリスト教徒の大多数がプロテスタントで、カソリックは全体の5%にも満たない事実から、ラスタファリアンのみでなく、ローマ法王はこの国では人気なし。ここだけの話(?)Popeがバティマンの代表として歌われる事が多い。

●Star=別段新しい言葉ではないが、スプラガ・ベンツが使うとかっこいい。こんなの自然に使えるようになったら、あなたのパトワも上級ね。「Right Ya Now, Star, Nothing Nah Gwaan, Star」と呼びかけに使う。主に男性が男性に使う呼びかけ言葉は多く、年上には「Boss」、年下に「Youth」、ほかに「Brethren」、「Brother」が代表的で、発音はカタカナに直しにくいけれど、それぞれ「バース」「ユーッ」「ブレチュエン」「ブラダ」、といった感じ。知らない人にもこうして話し掛けたりする。このへんがパトワの、ジャマイカ人の温かみを感じさせるところだ。

 時は移れど何が変わろうと、〈 Dis A Politician(政治家をディスし)Cuss A Sketel(スケテルの悪口を言い)Bun A Gay(ゲイをバッシングし)Be A Stud(男は種馬)〉はダンスホールの永遠のテーマ。まだまだあるスラング、次号に乞うご期待。