略歴のなかに「元ミュート・ビート」といわれ続けてきた二人だが、ここ数年の活躍はスゴイ!  
 増井朗人はケムリのメンバーとしてアメリカ、ヨーロッパを廻り、朝本浩文は自身のラムジャム・ワールドをはじめプロデュサーとして八面六臂の活躍。多忙な2人に久々に集まってもらったのは、幻のとまで言われてきた12インチ・シングル「サニー・サイド・ウォーク」の再発を記念してのこと。先ずは(曲をかけながら)2人がそれぞれ作曲したいきさつから。

増井:まず僕から言わせて頂くと、「ステェア・ウェル」はミュートでは初めて書いた曲なんだ…確か。この後にアルバムとかでは2曲〜3曲ぐらい書いて…でもこれが最初だったから自分では今聴くとウ〜ンって言う(笑)。もっとこうすりゃ良いのにな、なんて思うこともあったりとかするんだけど。丁度、父親が亡くなった時でもあったり。
朝本:「ステェア・ウェル」のBメロのコード進行がちょっと難しいんだよね、変わってるんだよね。
増井:テーマからサビに行くとこも、ちょっと変わった風に行きます(笑)。
朝本:僕が「サニー・サイド・ウォーク」を書いた時は、結構ライヴやってた頃だよね、メチャクチャ。
増井:そうだね、ミュートにしてはね。
朝本:だからそれで「サニー・サイド・ウォーク」って、ライヴやっててその真ん中に出てくるグラニテのアイスクリームのような曲が欲しいとか言って書いたんだよ。(その頃のミュート・ビートは)結構ずっとヘヴィ、ヘヴィ、ヘヴィって感じで繰り広げていたから。で、月に3本とかやってましたよね、ライヴ。
増井:そう言う意味では凄い効果的だったよね。演奏していてもずっとこう重たいダブ、重たいダブっていう状態だったからね。まあそれはそれで良いんだけど、やっぱりそれもあんまり多いとお腹いっぱいになっちゃうから(笑)。
朝本:また自分達はそれを毎回やるわけだからね(笑)。それで結構こういう曲を書きたいっていう衝動にかられて…。
増井:そう言う意味では凄くバンドにとってはタイムリーだった。
朝本:何か凄いライヴのことばっか思い出すね、この時期は。結構これやる前ってダブ度が高かったよね、スカとかの割合は低くて。ローランド(注)より前だから。

(注)'88年、渋谷クアトロ・オープン記念として開催された伝説のライブ「ローランド・アルフォンソ・ミーツ・ミュート・ビート」の事。尚このライヴはオーバーヒート・レコーズより昨年CD化(OVE―0066)された。

増井:そうだね。
朝本:その後、イアン・デューリーの「ララバイ・フォー・フランシーズ」のカヴァーを演り出したりして、ちょうどこれ出す前辺りが一番コアなダブダブな境地に入ってたからね(笑)。
昔話はつきないので、前向きな現在の音楽活動でのレゲエの影響とかレゲエの可能性について話してもらえるかな。
朝本:レゲエの肌触りみたいなものかな。今も増井はスカ・コアのバンドやってたり僕はドラム&ベースやったりしてるんだけど、音色のタッチとしてレゲエの何か、ミュート時代の経験とか自分で聴いてきたものとかがすごく残っているよね。
増井:あるね。
朝本:テンポとかアレンジが変わっても音像みたいなものが、凄くレゲエ経験が滲み出る部分かな。
増井:そこらへんは結構さあ、レゲエっていうのは独特のものを持っているから、どうしてもそうなるよね。
朝本:そういう肌触りみたいなものをずっと気を付けながら他のジャンルとか聴いてると、まあ有名どこで言うとリフュージ・キャンプとか…あの辺とかは明らかにレゲエだから。
増井:まあそうだね。もろにレゲエだもんね質感がね、リズムが違っても。
朝本:ヒップ・ホップであってもレゲエを経由した人、してない人がいるけど、経由した人はすぐ気付くよね。
増井:分かる。同じ匂いを持ってるなっていうのは分かる。
朝本:そういう意味では、水面下ではまだ脈々とレゲエは生きているし、自分もそういう質感のものが好きだし、(曲作りの時)出ちゃうというか。何か質感がやっぱり今だに好きかな、昔のとか聞いても。
増井:ミュートはミュートで結構独特だったけどね、ジャマイカともイギリスとも違うってのは勿論あったけれども。
朝本:同じ地下水から入ってったっていう感じはあるけれども(笑)。
増井:僕とかはね、朝本とは全然違った物の見方なんだけど、その例えばレゲエというものに対してバブルみたいなものがあって、それ自体がやっぱちょっと異常だよって。それを作って売る側なのか、それをチョイスして受け取る側なのか分かんないんだけど、文化の問題なんじゃないのかなって僕は思ったりするんですよ、日本の中ではね。海外のことは分からないけど。音楽ってものに対する文化っていう意識と比べて、映画とかは客が入らなくなったって言われてもやっぱ一つの文化としての認識があるじゃないですか、絵とかにしても。音楽もクラシックとかだったら文化だっていう風におそらく認識があると思うの。でもレゲエもロックも文化だと思うんですよね。文化は作る人だけがいてもどうにもならないし、欲しい、聴きたいって思う人だけがいてもどうにもならないし、お互いに両者で力を出し合って作らなきゃ大きく育ってもいかないしっていうところがね、僕はもっともっと考えたいなっていう。どうしたら良いのかはさっぱり分かんないけど、それは大事な文化なんだよっていう様な事を結構考えちゃうと悲しくなっちゃうんだけど(笑)。
朝本:上滑っちゃったりするんだよね(笑)。日本の中だとレゲエは夏だっていうのが一つの記号みたくなってたりとか(笑)。そんな事はないんだけどね、冬だって暖ったかくなれるんだよっていう(笑)。その辺が一般の常識と、音楽の本質とが日本の場合ずれてる様な気がするかな。
増井:他のジャンルでもきっとそういう事ってさ、多々あると思うんだよね。発信している側の意図と受け取る側の受け止め方のズレ。ズレはあってもしょうがないんだけど、ズレが生じてくるっていう事すら、もうそれが一つの文化なんだよっていうところをね、自分も含めてもっと分かるだろうかっていう所がね。でも何か、本当に行き着くところはそういう事なんじゃないのかな。
朝本:分かる、分かる。
増井:文化って凄く身近なものだから、これは好きだとかこれは美味しいとかっていうのが文化で、その一環だから。今日は食べたくないけど明日、明後日、二週間後にはこの味が欲しいっていう。言ってみれば食べ物を毎日チョイスするわけじゃない、それと同じ様に色んな音楽がチョイスできる場所にいるんだから、これが流行っているとかじゃなくて、やっている側も受け手も出来たら良いなっていう。
朝本:結構日本って、これが流行っているからといって流れがちなものが8割かな。
増井:8割かぁ(笑)。朝本が言うんだから、それは説得力あるよな(笑)。
朝本:これが流行ってるからやるんじゃなくて、これを流行らしてやるぐらいのさ、スキルを身に付けたいですね(笑)。
増井:僕はさ、例えばバンドでライヴをやってる。チケット代いくら、マーチャンダイズでTシャツとか売ったりしている。これはあなたが僕たちに投資をしてくれたと思っています、だからそれに見合ったものを返したい。そういうギヴ&テイクといったら良いのか分からないけど、そういう関係、意識がもっとあれば良いのにな、っていう風にミュージシャンとしてはとてもわがままな意見なんですけど、そうすると今流行ってるからっていう以前に、大事なこの三千円を何に投資しようかっていう事になるわけじゃない。
朝本:そういうのってどんどん変わっていくよね。今(インター)ネットで1曲350円だからね。
増井:だからそういう売り方されるのは、良いんだろうか。俺達はさあ、アルバムとして作って出すんだけど、1曲いくらで売られるわけじゃん、それはちょっと待ってくれよ、という感覚はあったりするじゃない。
朝本:何だかんだ言って人間なんて形に捕らわれると思うからレコードっていうのは有難い形だと思うんだけど、それが減ってくって事はちょっと問題だよね。1曲に対する有難みが軽くなってくるのは間違いなくて、1曲350円ダウンロードって時代になってくるわけだから、何かこういう方法でも感じる有難さみたいなものをね。ポジティヴに言えば、350円ダウンロードで相手に感じさせればミュージシャンとして本物かな(笑)、それはかなりハードル高いぞ、みたいな(笑)。
増井:なかなか太刀打ち出来ないよ、それ(笑)。買う人は一番最後だけど、まずは作る人と売る人がそこら辺のところをもっと意識出来たら良いのになあって、自分はそうしたいなあと思うんですけども。
新しい年が始まったばかりだから今後の活動について一発吹いておいてもらおうかな。
朝本:今年はDJ上手くなろうかなあ(爆笑)。
増井:そうきましたか(笑)。もっと華々しい事は(笑)?
朝本:去年の10月に出したオリジナル・アルバムをマッド・プロフェッサー、DJクラスト、DJカム、そして自分でもやったリミックス盤を3月にリリース予定です。期待して下さい。
増井:僕は今年は、今言った様な事も含めて自分自身が思っている事を自分の言葉で、といっても僕はトロンボーンだけど、言いたいなあ。やっとそういう気になったのかな。