ローリン・ヒルは、ボブ・マーリーの再来である。おっと、方々から非難の声がトンで来たようだが、12月4日、ジャマイカのオチョ・リオスにほど近いオラカベッサ・ベイで行われた『One
Love Bob Marley All Star Tribute』で、彼女が万単位の会場を沸かせたパワーたるや、凄まじいものがあったのだ。もちろん、ローリン・ヒルがアーティストとして本当にボブの域に達するまでは『ミスエデュケイション・オブ・ローリン・ヒル』級のアルバムをあと10枚以上作らなければならないし、私もブジュやルチアーノや故ガーネット・シルクも″再来″と言われたしね、くらいの気分で書いただけだが…。
このコンサートはボブ・マーリーの歌にラッパーやシンガーが絡んだ『チャント・ダウン・バビロン』の延長線上にある企画で、参加アーティストが1、2曲ずつボブの曲を歌い継ぐ、という内容。アメリカのケーブルTV局の主催だったせいか、人選はヒップホップ色が強かったアルバムより各ジャンルに目配りをした格好となった。プリテンダーズ時代から髪形が変わらないクリッシー・ハインドとか、ダリウス・ラッカー(フーティーズ&ザ・ブロウフィッシュ)がいたし、トレイシー・チャップマンやベン・ハーパーというブラック系でも系統が違う人もリスト・アップされた。
アルバム参加組からローリンとバスタ・ライムズ、エリカ・バドゥが顔を揃え、ジミー・クリフとトゥーツ・ヒバート(そう、メイタルズです)を混ぜて筋を通したのできっとこれでいいのだろう。バンドはアール・チナ・スミス、ファミリーマン・バレット、ディーン・フレイザーを含む最強の陣営、コーラスに至ってはマーシャとリタに、パム・ホールとベティ・ライトの変則アイ・スリーズ。この日のもうひとつの目玉は、ジギー、スティーヴン、シャロン、セデラ、ジュリアン、ダミアン、キマーニ、それからローリンの夫のローハンという″ボブの遺伝子遺産″がステージに勢揃いしたこと。ここ数年間、メロディー・メーカーズと異母兄弟との接近が著しく、スティーヴンが音作りを全面的に指揮した『チャント〜』でも、ジュリアンとダミアンはキーボードやドラム・プログラミングを担当している。コンサートのプロデューサーは『チャント・ダウン・バビロン』同様、次男のスティーヴンだ。父親を神棚に上げておくより、蘇生して新しい層に届けようというのが、親孝行として粋だと思う。
私はボブ・マーリー至上主義者ではない。レゲエを語る時、ボブで始まりボブで終わるような風潮にはうんざりだ。テレビ局主催のこのイヴェントにもその匂いを若干感じていたのだが、実際にその場に立ってみると大掛かりな仕掛けや豪華な出演者に酔うことなく、ただただ、ボブの詞のシンプルな力強さに改めて打たれた。出演者たちは記者会見で「ボブの曲を歌うのはスピリチュアルな経験だ」と口を揃え、ローリンとスティーヴンは「いま、彼の言葉が以前に増して必要とされている」と別々の機会に同じことを口にした。コンサートが始まってまもなく降ってきた雨が舞台装置のひとつに思えたほど、海辺の会場は神秘的な空気に包まれていた。
全員がボブ・マーリーの名曲を歌いこなせたわけではないが、トレイシー・チャップマンやベン・ハーパーは自分に染み込んでいるボブの詞を表情豊かに吐き出していたし、バスタとエリカは自分の言葉を新たに乗せることによって、元の詞を生かすことに成功していた。言葉を生かすために、リズムを低く力強く組むのはレゲエもヒップホップも同じだ。″ボブの再来″は細切れになって世界中の真摯なMCやDJやシンガーの行間に入り込んでいるのかも知れない。そんな気がする。
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