カシーフ・リンド待望の新作『ウィー・ニード・ラヴ』がリリースされた。ハズレ無しと言われてきた前4作と今作の大きな違いは、全曲がオリジナル・ソング、そしてプロデュースとトラック・メイキングに積極的に取り組んだ点である。幼少の頃より偉大な父ウィリー・リンドの英才教育を受け、アーティストとして着実にキャリアを重ねてきたカシーフは現在21歳。天性のスィート・ヴォイスに大人の色気が漂うシンガーへと見事に成長した彼に、電話インタヴュー。

●新作『ウィー・ニード・ラヴ』への思いを聞かせて?
K:全力を尽くしたよ。今までの作品の中でいちばん制作に時間をかけたアルバムなんだ。前作の『ホワット・カインダ・ワールド』も凄く気に入っているけど、今回は前作よりもヒップ・ホップやラヴ・バラードをブレンドしたレゲエ・トラックが入っていて、このアルバムは僕にとってベスト作なんだ。最高にいいアルバムができたよ。 
●今作に込められたメッセージは?
K:一曲一曲に込められたメッセージはそれぞれ違うけど、具体的には人生の事や世界について、僕が日常生活で感じた事を歌っているんだ。このアルバムを通して僕が一番伝えたいのはやっぱり愛は大切だということなんだ。人には愛が必要ってことさ。
●アルバム・タイトルの意味を教えて。
K:うーん(笑)。男女の愛や友達への愛、いろんな愛を持って人と接して行けばもっと良い世の中になるという意味なんだ。簡単に言えば「いろんな形の愛」っていう事。愛を見せ、助け合おうっていう事なんだ。
●カシーフはリズム・トラックの制作は勿論、今回はプロデューサーとしてもクレジットされているけど、プロデュースは今作が初めて?
K:前作の『ホワット・カインダ・ワールド』と同様、今作でもドラム・プログラミング、ピアノ、キーボード、ベース等、何曲かリズム・トラック制作に参加しているんだ。クレジットを見てくれれば分かると思うけど、アルバムの全16曲中15曲を父と一緒にプロデュースしたんだ。だけど父のサポートがたくさんあったから、どっちかと言えばコー・プロデュースと言った方がいいかもしれないね(笑)。以前もアントニー・クルーズやマイケル・ラッスル等、ヘヴィ・ビート・クルーの作品や妹ニキーシャの作品もプロデュースした事があるんだよ。これに関してはまだ父からたくさん学ぶ事があるから、プロデューサーとしては僕はまだ見習いだよ。今はやる事がたくさんあって忙しいからプロデュース業は来年から本格的にやろうと考えているんだ。
●トラック・メイキングはどのようにして学んだの?
K:ひとつ言える事は、偉大なスライ・ダンバーのプレイを見学したり、父の親友カール・ピーターソンにドラム・プログラミングの基本を教わったりして学んだんだ。彼等の事は深く尊敬しているよ。あとは遊びながら独学でトラック創りを身に付けたんだ。
●このアルバムは実際どういう形式でプロデュースを行ったの?
K:ヘヴィ・ビートには2つスタジオがあるんだ。僕はいつもそこでトラックを創ったり、リリックを書いたり、曲を創っているんだ。ヴァイブスが高まって曲が出来たらその場で仮のレコーディングを始めたりするんだよ。時には僕が書いた歌に合わせて、イメージしたトラックをミュージシャンに創ってもらったり、自分で創ったり、煮詰まったら父に手伝ってもらうんだ。彼はマスターだからね(笑)。でも、リリックを書く事に対しては確実にうまくなってきてるね。
●前作と比較してみると、微妙な歌声の変化があるように思えるんだけど、カシーフ自身はどう感じているかな?
K:(笑)沢山の人に声が変わったって言われたよ。今までは高いキーしか出せなかったのが、今は高いキーを保ちながら低いキーも出せるようになったから凄く満足しているよ。ディープな声を出せるようになっただけで、歌のスタイルは全然変ってないよ。声の変化に気づいたのは15才の時なんだ。ファースト・アルバム『ソウル&インスピレーション』 に収録されている「アイ・ウォント・ミー・サムバディー」をレコーディングしている時に以前出せなかった低いキーが出るようになったんだ。広いレパートリーのキーで歌えたからあの時は嬉しかったよ。それ以来、低いキーを頑張って練習しているんだけど、声変わりの最中はいろいろと大変な思いをしたよ。実際今でもまだ声は変化しつつあるんだ。
●ウィリー・リンドがプロデュースしたマキシ・プリーストの名曲「ワイルド・ワールド」(全米1位になった)のリズム・トラックで「ギヴ・ミー・ストレングス」を歌っているけど、これは誰のアイディア?
K:今年4月にマイアミで行なわれたレゲエ・ソカ・アワード・ショーで父がライフ・タイム・アワードを受賞したんだ。その時、父に感謝の気持ちを込めて仲間と一緒にメドレー・ソングを創ったんだ。その中で「ワイルド・ワールド」のトラックを創って父にトリビュートしたら凄く気に入ってくれて、このリズムで曲を完成させろと言われたのがきっかけでこの曲が出来上がったんだ。だからこの曲は父のアイディアとも言えるし、僕からの感謝の気持ちが詰まった曲とも言えるよね。
●新作ではインタールードを入れているけど、それについて何か理由はある?
K:インタールードを使おうっていうのは僕のアイディアで、タイトル・ソング「ウィー・ニード・ラヴ」の前にちょっとしたアクセントが欲しかったんだ。タイトル・ソングを強調する為に、「愛は全て」というメッセージを入れたんだ。
●今回のアルバムの中で一番好きな曲は?
K:(笑)全曲好きだよ。ベスト3を上げるとなれば、僕が特に気に入っている曲は「ワイルド・ワールド」のリズム・トラックを使用した「ギヴ・ミー・ストレングス」、タイトル・ソング「ウィー・ニード・ラヴ」、 そしてR&Bトラックで歌っている「アイ・ワナ・ビー・ラヴド」だね。好きな曲はまだまだあるんだけど…曲名が思い出せないなぁ(笑)。
●珍しく今作ではカヴァー・ソングを一曲も歌っていないけど、その理由は?
K:今回のアルバムで自分自身のオリジナリティをフルにアピールしたかったんだ。だからアルバム大半のリリック創り、トラック制作、そしてプロデュースにも参加したんだ。プロデュースが一番難しかったけど、自分を出せて凄く満足してるよ。これからもいろいろな事にチャレンジしていこうと思っているんだ。
●10代の頃と比べて、考え方や自分自身変わったと思う所はある?
K:いろいろな意味で大人になったと思うよ。10代の頃と比べて今は人生の事や周りで起きている事、そして音楽ビジネスについても、いろいろな事を学んだと思うんだ。それと、父が他の人達と会話しているところを聞きながら、音楽業界の事を理解できるようになったよ。
●最近インスピレーションを受けたアーティストはいる?
K:それはいつだって、ベレス・ハモンド。レゲエ以外のアーティストではサム・クックとスティーヴィ・ワンダーが大好きだよ。まだたくさんいるけどね。
●マイアミに住んでいるカシーフから見て、ジャマイカのレゲエ・シーンはどう見える?
K:昔と比べてちょっと変わったね。今のジャマイカはハードコアなダンスホールやヒップ・ホップが凄く盛り上がってるよね。今はラジオでもあまりラヴァーズがかからなくなったから、そういう意味で僕は昔の方が好きだけどね。
●ヘヴィ・ビートのスタンスは?
K:ヘヴィ・ビートはいつまでも変わらず、ラヴァーズ・ロックを始め、ダンスホールでもいい作品をリリースしていくよ。
●今回のアルバムで、レゲエの名トラックをリメイクとして何曲か使用しているけど、その理由は?
K:いろいろなレゲエCDを聞いていたら気に入った曲がいくつかあったんだ。それを自分でリメイクして創ってみたら父も気に入ってくれたんだ。二人の気持ちが一致したからアルバムに使用したんだよ。アルバムの25%ぐらいはリメイク・トラックだけど、歌は全部オリジナルだよ。
●前回のインタビューでビジネス・マネージメントを勉強する為に、専門学校に進学したいって言っていたけど、それは実行した?
K:このアルバム制作以外にも妹二キーシャのアルバム制作やマイケル・ラッスルのトラックを創ったり、いろいろと忙しくて専門学校には未だに行ってないんだ。多分来年くらいには通い始めようと考えて
いるんだ。
●マイアミのレゲエ・シーンはどう?
K:シーン自体はいいと思うんだ。皆ダンスホールを聴くのが好きだね。ラジオを付けてレゲエ・チャンネルを聞くといつもダンスホールが流れているんだ。勿論僕もダンスホールを聴くけど、ちょっとかけ過ぎだと思うね。それぞれ皆聴きたい音楽のタイプが違うんだから、そういう意味ではちょっと悲しいね。DJももっといろんなタイプのレゲエをかけるべきだと思うんだ。
●今後のリリース、ライヴなどの予定は?
K:14歳(笑)か15歳になる妹のアルバムを今制作しているんだ。リリース予定は父次第だね(笑)。今月はマイアミでヘヴィ・ビート主催のショー・ケースに出演するんだ。
●父、ウイリーに対しての思いを聞かせて。
K:彼は僕の父であり、僕のプロデューサーでもある。音楽だけではなく、人生の事や何か大きな壁にぶつかった時どう対処すればいいのかとか、勿論音楽をやっていく上での生活や人との接し方等、いろんな事を父から教わっているよ。心から感謝している。
●最後に、日本のファンにメッセージを。
K:僕をサポートしてくれてありがとう。とても感謝してるよ。いつも言う言葉だけど、Live With Love…愛と共に生きよう。そしてこの先何が起こるか分らないから、自分に夢があるなら絶対諦めないで生きて行こう。また日本に行ける時を楽しみにしているよ。