アイランド・レコード制作のジャマイカ映画『サード・ワールド・コップ』が封切られ、5週目に入った現在もソールド・アウトとなる程の人気を博している。12週のロングランを記録した97年の『ダンスホール・クィーン』にも勝る話題でバイオレンスを非常に忌み嫌い、くさいものには蓋をする風潮にもかかわらずマスコミからも絶賛されている。
 この映画は7月公開予定が10月に延期された。当時はギャングの闘争事件が多発しCurfew(外出禁止の戒厳令)が一部のゲットー地区で発令されるなど、この映画を彷彿とさせる事件がつづき制作側が映画上映を見合わせたのだ。
 『サード・ワールド・コップ』はポリス&ティーフの物語であり『ダンスホール・クイーン』がシンデレラ・ストーリーであればこちらは現代のカウボーイ映画である。Gunfireなど暴力シーンは想像より少ない。が、例にもれず愛国心が強くプライドが高い国民性を刺激してしまったようでジャマイカのすべてを晒す勢いの制作に対して公開前は反対意見も多少聞かれた。
 ゲットー出身で、極悪犯罪と闘うハードコア・ポリス(ジャマイカ人のいうバッドボーイ・ポリス)Capone(ポール・キャンベル)は、その銃の腕前と才能を認められ、ポートアントニオの田舎からキングストンの犯罪多発地区に異動となる。Caponeの初仕事は彼が育ったDungleとよばれるゲットーでの銃器密輸売買を調査することだった。CaponeはゲットーのBreathren(仲間)たちと再会するが、兄のようにCaponeを慕うRatty(マーク・ダンバース)がゲットーのドン、Oney(カール・ブラッドショー)の直属の手下であることを知ってしまう。Oneyは教会の慈善運動を利用して銃器を密輸しており、Rattyとその武装した仲間達(スケアデム・クルー他)は銃の売人役を担っている。ゲットーを抜け出したCaponeとゲットーでサバイブしていこうとするRatty。映画は太陽とレゲエ以外のジャマイカを、ポジティブに見せてくれる。
 ジャマイカにはバッドボーイ・ポリスと呼ばれる有名なポリスマンが数名実在する。Caponeのキャラクターはゲットー出身でハスラー(チンピラのような存在)から成り上がりビジネスマンとしても成功しているあるポリスを思い浮かばせる。ジャマイカのポリスはリスペクタブルな存在であり、警察沙汰が日常茶飯事であるこの街では、ポリスは一般市民に近い存在で共存している。だがその一方でコラプション(腐敗)とバイオレンスの代名詞のようにバッシングされることも少なくない。映画中にもドンOneyと手を結ぶポリスが登場する。あだ名は「バビロン」これは以前の「ラスタファリ」の習慣があった頃にラスタファリアンがポリスとソルジャーにつけた蔑称である。また、ジャマイカのポリスの過激性は社会問題でもある。ともすればシリアスになりすぎてしまうこの題材を映画はジャマイカ人特有のユーモアで風俗画のように楽しく見せてくれる。Tek Bad Tings Mek Laugh. 何でも笑いにかえてやるさの精神だ。
 脇役も効いている。われらがベロ、有名コメディアン演ずるはCaponeの相棒Floyd役で臆病なキャラが笑いを誘う。そしてなんといってもDeportee役のニンジャマン! 映画が厚みを増すほどの存在感だ。その他DJも出演しているし、バッドワードにダンスホール・シーン、サウンド・トラックなどレゲエ要素の他、ジャマイカの日常エピソードも盛り沢山。中でも聖書の1ページ(Psalm23)を破り、リズラの代わりに巻きスプリフにして吸ってしまうシーンが印象深い。Psalm23は旧約聖書の詩篇の中でも最も愛される「羊飼いの詩篇」、ジャマイカ人ならば知らない人はいない。ブジュのチューンにもありますね。
 Jah! Mek Laugh. たのしいクリスマスを。
【Website】http://www.thirdworldcop.com