リッチー・スティーヴンス率いる "Pot Of Gold" のノンストップミックス第二弾『ノン・ストップ・ジャグリンVol.2』が先月末に発売になった。
 数多くのレーベルがその人気を維持出来ずに失速、又は一発だけのヒットを残し消えていく中で、未だにクオリティの高いシングルを定期的に発表し続けている数少ないレーベルの一つとして数えられるのが "Pot Of Gold" だ。しかもほとんどのチューンが現地向けのサウンドを指向したダンスホール・チューンだ。結果的に昨今は他ジャンルのアーティストやリスナーからも好リアクション、注目を集めている様だが、基本はジャマイカ人に向けたジョグリン向けチューンばかり。この事は本誌前号掲載のリッチー・インタヴューを読めば解るだろう。単純に自分がやりたい様にやっているのが本音だろうけれども。
 さて、レーベルのサウンドの特徴は、と言えば…まずはその派手な、時に行き過ぎの感もある、そしてそこが又ダンスホールっぽい(って言うか、ダンスホールなんだけど)ゴージャスな音造りが上げられる。
 ストリングス、きらびやかなシンセをふんだんに散りばめたそのサウンド。そしてストリングスもシンセも派手なフレーズなものだから、コテコテ感が倍増。いわゆる練金術的なシブめな音楽(日本人が言うところのですよ、勿論)が本来のダンス・ミュージックとして機能しない事が多いのとは対称的な、単純明快な狙いがうかがえるじゃありませんか。
 あくまで、ダンスの現場で映える音、他とは一線を画すインパクトのあるサウンドは、それだけで耳を引きつけるからね。ムードだけでは動かないジャマイカ人の趣向には、これ位派手なアレンジでも丁度良い塩梅ってとこか。次のトラック辺りでファイナル・カウント・ダウンのパクリがあっても、全然不思議じゃないよな。実際、他のレーベルでもやりそうだけど、その時オーケストラレーションを使うでしょ、 "Pot Of Gold" は。そんなディスコチックな上もの(鳴り物)が当レーベルの最大の特徴の一つ。
 そして、忘れちゃいけないのが重低音。サウンドのボトムの部分に当たるベース等のヴォリューム感が素晴らしい。何しろ、音が良い。こんな気持ちの良い音色が聞けるのもダンスホールならではだ。ここのベースの音色はあくまでクリア。濁りの無い音色のベースが全体をリードしてサウンドに絞まりを与えている。ベースラインは手弾きっぽいフレーズをシンプルに展開するだけなのだが、だからこそのこのグルーヴ感。良〜く聴いてみるとその音色は結構生音っぽいし、フレーズもナチュラル。シンセ、キーボード等の派手な演奏とは対称的なボトムってのも、たまらなくダンスホール。繰り返しになるけど、このベースの音色はスゴい。出そうと思って、中々出せるもんじゃないでしょ。ベースラインだけでも、イケる。これってかなり重要なので、まだって人は是非チェック。出来れば良い音のサウンド・システムで。

 という訳なので、当レーベルのグルーヴはドラム、パーカッション、はたまたブツ切れ重低音(ベースなのか、バス・ドラなのか解んないの多いんだ、これが)等のリズム主導ではない。
 最近の(ここ5、6年の間大量に制作された)ポリリズム、又はそれに準じるリズム・パターンが主役のバック・トラックとは "Pot Of Gold" の音造りは違うのだ。
 だから、 "Pot Of Gold" の音は、前述の様なむき出しのリズムだけのダンスホールを前にすると、どうして良いのか解らなくなってしまう人達にも受け入れられ易いサウンドと言える(ジャマイカ国外では特に)。打楽器系のアンサンブルを全面に押し出したサウンドよりは、確実に万人向けなので、日本の老若男女も御安心を。
 シンガー系のアーティストが気持ち良さ気に歌えるのも、このサウンド造りと無関係ではないはずだ。他レーベルが制作しているトラックに比較して、シンガーによるチューンの出来が優秀なのは必然。だってリッチーが運営してるレーベルだもの、自分で唄いにくいトラックをわざわざ制作しないでしょ。例えば "Bada Bada" なんかシンガーにとってはかなり歌いにくいトラックだと思うが、当レーベルがこの手を制作するのは一寸考えられないって事だ。ジャグリン向けとは言え、決定的に異なっているのだ。
 シンガー勢のバラエティさとDJ勢のバラエティさも然る事ながら、どのチューンのクオリティも極めて平均的に高いのもこのサウンド・メイキングのたまもの。どのシンガー、DJも実力通り(又はそれ以上)の物をノビノビと発揮するにはもってこいの構造。しかも、その面子たるや、スター大集合。バウンティ・キラーから子役コッパー・キャットまで。そして今やミスター・ヴェガスもレギュラーだ。
 ね、音を聴きたくなったでしょ、続きは本編CDでどうぞ。