皆さんが手にしてるこの「Riddim」は、B4サイズのペラ、しかもたった三千部で1983年5月にスタートした。この80年代前半〜中期と言えば、日本におけるレゲエ・ミュージックの評価と言えばボブ・マーリーとジミー・クリフ程度の時代だ。本誌を読み続けてくれている懸命な読者には笑い話だろうが本当の話で、レゲエ・ミュージックをまともに紹介してくれる音楽雑誌など皆無に近かった時代なのだ。もしレゲエやスカやDUBが生れなかったらと仮定したら、今のクラブ・ミュージックやヒップホップなど、ある種の音楽シーンの存在自体が大きく変っていたことは事実であろう。レゲエの異母兄弟でもあるヒップホップも他誌に先駆けていち早く紹介しながら、遂に今号で200号(創刊以来16年9ヶ月!)。毎回読んでくれる読者を始め、スポンサードしてくれるアパレル・メイカー、レコード会社、レコード・ショップ、そして快く店頭に置いてくれるショップの方々に支え続けられている。

この場で深く感謝します。

その「Riddim」が200号を記念し、11月20日(土)に「Riddim」とも縁の深いこだま和文のショウを行なう。題して『Riddim & Liquidroom presents こだま和文 & His Friends』。会場は良質なストリート&クラブ・ミュージックをガンガン紹介し続けている新宿のリキッドルーム。
 こだま和文と言えば、80年代後半にアルバム『Flower』『Lover's Rock』『March』、シングル編集盤『Still Echo』、ライヴ盤『Live』、そして日本初のDUBリミックス・アルバム『Mute Beat Dubwise』(全てポニーキャニオン/オーバーヒート)を発表した(今年あの伝説的なライヴをCD化した『ローランド・アルフォンソ・ミーツ・ミュート・ビート』(オーバーヒート)もそのカタログに加わった)日本のクラブ・ミュージック創世記における最重要バンド、ミュート・ビートのリーダーだった男である。


 90年以降、こだま和文は、多ジャンルのミュージシャンへの楽曲提供、プロデュース(フィッシュマンズ、チエコビューティ他)、レコーディング参加(DJクラッシュ、キミドリ、ムーミン他)といった活動を続けながら、92年に初のソロ・アルバム『Quiet Reggae』(ソニー)、続いて映画「集団左遷」のサントラ『Dread Beat In Tokyo』(メディアレモラス→オーバーヒート)、96年には盟友Gotaとの『Something』とそのリミックス盤『Something Remix』(共にソニー)を発表している。そして今年、久々に活動を開始し、UAの「リンゴ追分」への参加に続き、9月22日に久々のソロ・アルバム『Requiem DUB』(ビクター/スピードスターInt.)をリリースした。この『Requiem DUB』は、Gotaとの『Something』発表後の3年間にたった1人きりで作り続けた「Requiem」「Lamentations」「Gloria」の3曲を、彼が愛してやまないワッキーズ・レーベルのロイド″ブルワッキー″バーンズのミックスによって完成させた作品だ。この『Requiem DUB』はレゲエ/DUBファンだけでなく、若いヒップホップ、ドラムン・ベース、テクノ系のファンからも支持されているようだ。
 ミュート・ビート時代、こだま和文はメジャーフォースやいとうせいこうといった日本のヒップホップ、ゴーゴー等、レゲエ/DUB以外のクラブ・ミュージックが生れた瞬間にも関わってきた。そしてこうしたストリート&クラブ・ミュージックが80年代以上に細分化した90年代においても、客演やプロデュース・ワークで彼の強靱なメッセージはしっかりと時代に爪跡を残してきている。彼が90年代に関わってきた音楽は、全て90年代を象徴する音楽と言っても過言ではないだろう。
 だが、90年代に入ってこだま和文は客演ではしばしばステージに立つことはあったが、なぜかソロでは一度もライヴを行なっていない。今回「Riddim」200号を記念して初めて行われるこだま和文のソロ・ライヴは、タイトルを見て解る通り、90年代のミュージック・シーンを作り上げた強烈なメンツが彼をバックアップし、かなりスペシャルな内容となっている。


 さてこのスペシャルなライヴは、彼の90年代の活動を5部構成として展開する予定だ。第一部はこだま和文の古くからの親友、ランキン・タクシー率いるタイクシー・ハイファイを迎え、自らもDJプレイ。第二部は新進気鋭のバンドを率いて、かつて一度もライヴ演奏されたことのなかったソロ・アルバム『Quiet Reggae』と「集団左遷」のサントラ盤『Dread Beat In Tokyo』等からのチューンを豪華ゲスト(誰だ?)を交えて展開(ミキサーは宮崎″DMX″泉!)。第三部は、アコースティックかつダビーなサウンドが好評で、こだま和文とも親交のあるポート・オブ・ノーツとのアコースティック・セッション。第四部はヒップホップ・セッションとして、最近「Big City」で共演を果したムーミンとブッダ・ブランドのデヴ・ラージ(年末リリースされるアルバムも楽しみ)等が登場し、ブレイクビーツで共演。第五部は最新作『Requiem DUB』からの曲をミキサーにドライ&ヘヴィのウッチーを招いて披露する予定。さらに急遽、『Requiem DUB』のミキシングを全て担当したロイド″ブルワッキー″バーンズもNYから駆けつけてくれることが決定した。もしかしたら「Give Thanks」のダブ・ポエットが生で聴けるかもしれない。
 80年代中期から、じゃがたら、S-Ken、トマトス等との「トウキョウ・ソイ・ソース」という伝説的なイベントを中心としたこだま和文の活動は、今のストリート&クラブ・ミュージック・シーン全体を見渡せば、どれだけ重要だったか気づくはずだ。それを総決算するたった一日だけのこだま和文 & His Frendsによるスペシャルなライヴ。これを見逃したら「西暦2000年分の反省」どころではないものにしたい。(大場俊明)