OVERHEAT 30th Anniversary
"DUB CLASH"
2010.12.18.Sat at Liquidroom
Text by Takeshi Fujikawa
レゲエという音楽が、なぜこれほど魅力的なラフでタフな音楽なのかを考えるとき、レゲエそのものが辿ってきた道を振り返ると納得がいく。ジャマイカは経済的には決して豊かな国ではないけれども、彼の国の人たちは、創意工夫を持ってして楽しむ術を知っている。レゲエという音楽はそのジャマイカ人のクリエイティヴィティを見事に表しているといっていい。同じリズム・トラックを複数のアーティストが使い回す、リズム・トラックをリメイクする、ポータブル・シンセのプリセット・リズムをそのままリズム・トラックとして使ってしまう、イフェクトや音の抜き差しで違う曲に作り替える(ダブ)...といったことはジャマイカのレコーディングから生まれたことだ。
ダンスの現場では、レゲエを魅力的に聴かせるための大口径スピーカーを伴うサウンド・システムの存在はもちろんのこと、ヴァージョン(カラオケ)にのせて即興で歌ったりDJしたり、一点もののスペシャルで競い合ったり...と、ジャマイカならではの音楽文化を生み出してきた。ジャマイカが生み出したものは、ジャマイカにとどまらず、今や世界標準となっているものも少なくない。それは、ダブやリミックスという言葉が音楽ファンの日常語となっていることからもおわかりだろう。
さて今回、30周年を迎えるオーバーヒートが開催するイベントが、Dub Clashだ。ルーツ・ラディックスのスタイル・スコットというジャマイカを代表するドラマーと、ミュート・ビートの松永孝義という日本を代表するベーシストを軸に、レゲエという音楽に魅せられ、長年レゲエと向き合ってきた日本のミュージシャン達が加わる。それを、ブルワッキーことロイド・バーンズとDub Master Xという2人のダブ・エンジニアがダブ・ミックスで競うという企画だ。レコーディングの現場で行われていることをライヴ・ハウスという聴衆の前で再現し、それを対決にしてしまおうというのである。ただ単にダブの対決を楽しむだけでなく、イベントは、先に述べたようなジャマイカが生み出した様々なクリエイティヴィティを凝縮した場になるはずだ。
オーバーヒートに所属していたミュート・ビートというバンドはエンジニアであるDub Master Xをメンバーの一員とする当時としては画期的なバンドだった。ミュート・ビートの89年、渋谷公会堂でのライヴを記憶の方は、Dub Master Xがステージ上にあがり、そこでミックスした姿を記憶されているかもしれない。今回は、それを一歩推し進め、2人のエンジニアの対決とするのだ。Dub Master Xとブルワッキーという2人の個性が、どのようにバンドを調理するのか実に楽しみだ。
今回の30周年企画は、ミュートとグラディ・アンダーソン、ローランド・アルフォンソ、オーガスタス・パブロ、リー・ペリー、キング・タビー...など、ミュージシャン達との新たな出会いを作り出し、レゲエという進化し続ける音楽と密接に関わってきたオーバーヒートによる、実にオーバーヒートらしいイベントだ。スタジオでのダブ・ミックスというやり直しがきくダブではなく、今回は生の演奏を素材にするという一発勝負。参加するミュージシャン達とエンジニア達がどのようなサイエンスを起こすかは、現場にいる人間しか体感し得ない。僕自身もそれを体感しに足を運ぶつもりだ。
DUB MASTER X
LLOYD "BULLWACKIE" BARNES
STYLE SCOTT
TAKAYOSHI MATSUNAGA
KAZUFUMI KODAMA
AKIRA TATSUMI
HIROFUMI ASAMOTO
EMERSON KITAMURA
KIYOSHI MATSUTAKEYA