The Miceteeth
tomorrow more than words
Text by Takeshi Miyauchi
ホーン隊の脱退&リヴァプール・サウンドへの急接近で論議を呼んだ『Constant Music 2』から約1年2ヶ月ぶりとなる5thアルバム『07』は2枚組になる……との噂もあった大作。ヴォーカリストの次松大助に話を聞きながら本作を探っていこう。
大所帯のバンドを継続させていくってのは、なかなか大変なことで。このザ・マイスティースも、デビュー当初は10人編成だったが、現在では正式メンバーが5人。そこにサポートでホーン・セクションが加わるカタチで活動を展開している。そんな状況下では、必然的にバンドのアプローチやアンサンブルにも変化が生じるのは当り前ではあるが、マイスティースはその変化さえも楽しんで、自分たちの音楽に昇華してるんじゃないか? 5作目のフル・アルバムとなる最新作『07』を聴いて、そんなことを思った。
「最初は、みんなそれぞれ曲を作りはじめたんですけど、デモが集まってきたら、いろんな曲があって……そうこうしてるうちに、いっそ先にアルバム名を『07』って決めて、2007年に作った曲ってことで、あまりコンセプチュアルじゃないアルバムを作ったらどうやろ?って感じではじまって。ドキュメントというか、記録というか、そんな感じですね」(次松大助/以下同)
そうして生まれたアルバム『07』は、トータルタイム78分を超える、全35曲の特濃作となった。彼らが所有するハウス・スタジオで繰り広げられる、リラックスしたセッションたちの記録。中にはきちんとした楽曲に仕上がる途中の、サウンド・スケッチ的な短いナンバーもあったり。
「日常的な感じですね。普段練習してるところと同じスタジオでレコーディングもして。あんまりよそ行きな感じもないし。そういう場所でレコーダーをだらだら流しっぱなしにしといて、なんも決めずにセッションしてたり。みんなが楽器を持ち替えてみたりしながら……楽器変えたりするのは、練習前なんかによくやってたりしてたんですけどね。自分らのスタジオを持ち出してから、結構そういう感じでセッションするのが多くなってきて。“2時間でいくら?”みたいな感じのスタジオの使い方じゃないですからね。自分らで面白がってるセッションの部分とか、そういうのを(そのままのカタチで)入れてもいいんじゃないか?って。収録する曲数については、なんとなく多くしようっていう考えはあったんですけど……それでもだいぶ多くなりましたね(笑)」
スカを基軸としながら、多彩な音楽性が奔放に発揮された本作。そんな中でも異色なのが、中国語詞で歌われるカリプソ・チューン「緑風荘的人々」。
「カリプソで中国語っていうのも、面白いかなって思って。歌詞を考えてる時、作曲した金澤(義)に聞いたら、ニヒルに面白い感じがいいって言われて。だから笑える感じのを作ろうと思ったけど、そういうのって同じ漫才のネタを聞かされるのと同じで、だんだん新鮮味が薄れてくると思うんです。だから、中国語でやってみたら面白いかなって思って。やってみたら、ちょととファンシー感とかファニー感も出て面白かったですね」
それにしても、オーセンティックな肌触りを感じさせるスカ・バンドとしてスタートし、サードあたりでは後期ビートルズにも通じるような緻密なポップ・アルバムを作り上げていた彼らが、ここ最近でまたバンドとしての生の魅力や、セッション感を追求しているという、その振れ幅の大きさは面白い。
「振り幅的に、どっちかだけやとやっぱり疲れるっていうか。かっきり衣装着て化粧してみたいなアルバムだけやと疲れるし、その逆も疲れるし。今は、振り幅の逆に来てる感じですよね。でも、たしかに極端ですけど(笑)」
自由であり、実験的でもあり、だけど着地点は確実にポップな……スカ・バンドとしてのどこにもないスタイルを、作品を重ねる度に研ぎすませているマイスティース。近々にはヴォーカル次松大助のソロ・プロジェクト“箱”や、ギター森寺啓介のソロ作も予定されているとか。『07』で大きく振り切った彼らの音楽的な振り子は、これからどんな放物線を描くのか? 実に楽しみである。
『07』
The Miceteeth
[Almond Eyes / XNAE-10012]