You The Rock★
Big Vip Hop

 
Text by Takashi Futatsugi / Photo by UG (Ugraph)
 

今も昔もいつだってフレッシュ!なYou The Rock★からフレッシュ!なニュー・アルバム『Big VIP Hop』が到着。密度の濃い8曲入りのサウンド編とその裏版とも言えるビジュアル編という豪華2枚組。これぞヒップホップ道を追求し続けるYTR★の現在の姿そのものだ。
  
「アメリカ版You The Rock★デビュー!!」というキャッチ・コピーに思わずのけぞってしまうヒトもいるに違いない、通算9枚目となるアルバム。しかし何故アメリカ版?で、しかもデビュー盤なのか? その“理由”は、つまり、こういう事だ。其の一、トラックが全てUSメイドである。其の二、PVもLAで向こうのディレクターが撮ったモノであり、その映像集=DVDとの2枚組である。其の三、アートワークはルーペ・フィアスコの『Food & Liquor』のジャケも手掛けたデザイナー(チャック・アンダーソン)である。そう、“アルバムごとに生まれ変わる”破壊と創造を繰り返すモンスター、Grand Master FreshことYTR★は、今回もトビっきり“新しい”のだ。
 
前作でもスカパラ(「Apache」を熱演)やFPMとのコラボ等のサプライズがしっかり用意されていたが、今回はサウンド面でのパートナーを、“ネクスト・スコット・ストーチ”との呼び声高い売れっ子、ジョナサン“J.R.”ロッテム(リアーナ、アクセント、50セント、トニー・イエイヨー、モブ・ディープ、ザ・ゲーム、オービー・トライス、リル・スクラッピー、リック・ロス、スヌープ・ドッグ、リル・フリップ、エボニー・アイズ、J-シン、Jojo、トレイ・ソングス、リル・キム、ラトーヤ、パリス・ヒルトン、ジン、ファボラス、イグジビット等々を手掛ける。またブリトニーの新恋人でもある人物)と、トータル・ダイナスティの新鋭ジョージ“J-ブッタ”ジョンソンの2人に絞り、サウス・スタイルのトラップ・ビーツやクランクにチャレンジしているのがミソ、な“旬な一枚”となっている(=YTR★は過去にマイアミベース物の「超楽C-E-Z」というハイパー・チューンも残しているが)。
 
 重厚な(オペラ)「カルミナブラーナ」使いのオープニング・トラック「Top De Burnder」からしても、確かに今までの諸作とは雰囲気が違う。これはGuess Who's Back的な役割のセルフ・ボースト物であるが、正にBig VIP Hop! そう、ここまで凄まじいテンションのフックは中々ないのでは(YTR★物では「Abaredaiko」以来?)。続く“現役最前線三十路男 VS 艶女予備軍”のせめぎ合い(?)を一方的に描いた「Dirty 30 Crazy」にしても、ドテッ腹をエグる様な音圧のキック・ベースが支配するトラック(J・ブッタ作)を、難なく乗りこなした新機軸の趣き。その“自然なノリ/馴染みの良さ”はJ.R.ロッテムが“オリエンタルなビート”を意識したと思しきリード曲の「Bangin Shake It (Hip Hop)」でも見事にキープされている。いわゆるパーティ・チューン、と云っても“向こうとの温度差”を感じてしまう(つまりUS物とはMix出来ない)……などという現場のDJ達のジレンマもコレで解消!? それは何もUSメイドのトラックだから、という部分に限られた話などではない。フロウや声色など“ラップという表現”に端々まで工夫を凝らした“主役”の力量によるところが大きいのだから(しかも今回はフィーチュアリング・ゲスト一切ナシ)。
 
そんな徹頭徹尾“音で、言葉で、踊らせる”タイプのフィジカルな世界観は、同じくJ.R.ロッテム制作によるどこかラテンの香りのする求愛チューン「Woooh!!」にも繋がっている。そうしたどちらかと言えば“特殊な言葉感覚(パンチライン例:Heart Beat 一気力 Rock Moving/DefなJamなBossはRick Rubin/Haッとして Good来る Cool Cruising/Jin↑Jin↑Bin↓Bin↓する俺自身「Bangin Shake It (Hip Hop) 」より)”を押し出したモノと、“ハードコア・メッセンジャーまたはカンペキT-Cha”らしい、よりストレートなコンシャス・リリックスが絶妙なバランスで両立出来ているのも8曲入りのフル・アルバムというミニマムな体裁でいて、食べ応えは十分≧腹八分な本作の特徴のひとつだ。King Of Crunk=リル・ジョンさながらにガナリ倒すフックと、まるで“心の声”の様な素の語りのヴァースのコントラストも見事な「Now Maken Up!」で“気付け皆(Now!)、動け皆(Now!)、フザケてる場合じゃもうねえんだ!!”と警告したり、「Hard Play Hard Work」で“踏み出した第一歩はもう戻せないし 引き返せない”と自分にも言い聞かせたり(シリアスなトーンのトラックで“Never Die!”と繰り返す、ガヤの効果も絶大な1曲)、まるでドクター・ドレーの様な劇空間サウンドの上で、これまで歩んで来た“ヒップホップ道”を振り返る「U Know Y?」、そしてジム・ジョーンズ(ディプセット)に代表されるBaaalliiinn!な持たざる者達の闘争のテーマ=ライダー・ミュージックのYTR★版の「Big Bird」(とは言え、このサブジェクトも本来彼が得意とするJust Realityモノの一部だ……)まで、それぞれ簡潔にして強烈なメッセージが染み渡っている印象が強い。そうした耳に響くリリックをしっかり感じる事で、彼が何故今こうした方向性のアルバムを作りたかったのか、が自ずと理解出来るのではないだろうか。
  
Keep On 等身大“以上”。だからこそ可能になるエデュテインメント(娯楽+教育)。YTR★はそれを実感し続ける正真正銘のヒップホッパーだ。言うまでもなく……。「とにかく時代は変わりつつあるんだから」という(以前の)セリフを踏まえた上での、2007年版“Battle Of Hip Hop”。こういう“Japan”のアピール方法もあるんだな、と痛感させられた次第だ。
  
「Big VIP Hop」
You The Rock★

[Gate / GAGJ-0027]

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