Lady Saw
Walk Out
Interview by Minako Ikeshiro / Photo by VP
「いろいろなムードの曲が入っているでしょう?」と、新作『Walk Out』についてレディ・ソウは目を輝かせた。新作は、カントリー・ミュージックのメロディーやヒップホップのビートを拝借しつつ、肝がゴリゴリのダンスホール・アルバム。ダンスホール、否、レゲエを知り尽くした人間しか作れない幅も奥行きもある作品を作り上げたのは、さすが女王。ママ・ソウの最新語録をニューヨークからお届けしよう。
●今回でVPとの契約が最後なので『Walk Out』というタイトルになったのだと思いますが、別に引退するワケではないですよね?
Lady Saw(以下L): 違う違う。私としては“No Less Than A Woman”の副題の“Infertility”(不妊の意味)をアルバムのタイトルにしたかったんだけど、VPのスタッフの意向もあって。あっちの候補の『First Lady』は私が勘弁して欲しかったのね。「出て行く」というのは、音楽業界にはネガティヴな人達もたくさんいるから、その人達を置き去りにしてもっといい場所、次の段階に行くってこと。お黙り、って言いながらね。
●ジャマイカではしょっちゅうステージに上がって現役バリバリですし、新しい章を始めるという意味ですね。
L: その通り。
●“ファースト・レディー”には抵抗があった?
L:いいえ、“クィーン”も“ファースト・レディ”も普段呼ばれる分には好きよ。私はクィーン・オブ・ダンスホールで、今までもこれからもそうだけど、それはもうみんなが分かっていることだし、過剰反応するアーティストもいるからアルバムのタイトルには向いてないと判断しただけ。
●テナー・ソウのファンだったから、レディ・ソウにしたという話は有名ですが、彼のことをオン・タイムで知っている日本のレゲエ・ファンは少ないと思います。どんなアーティストだったのでしょう?
L:素敵な人だったわよ! 10代でキングストに出て来てマックスフィールド・アヴェニューに住んでいた頃はお金がなくてダンスに入れなくてね、フェンス越しに彼を見ていたものよ。真っ白の服でキメてカッコ良かった。それでコピーし始めたら、みんなが女版ソウ、レディ・ソウって呼び始めたの。
●あけすけにセックスについてDJするスタイルになった理由は?
L:最初はフツーのラヴ・ソングを作っていたけど、それでは注目されないから、だったら男性が同じことをやろうと思って。バッチリだったわね(笑)。
●シャバ・ランクスもそれで売れたワケですし。
L:その通り。あれくらい思い切ってやらなくちゃ。
●新作の話をしましょう。今まで以上に様々なタイプのレゲエが入っていますが、全体のバランスを考えながら作ったのでしょうか?
L:常にレコーディングをしているから、最初からアルバムのバランスを意識して曲作りはしなくて、最後に選曲する時に考える。
私はカントリーもよく聴くのね。ケニー・ロジャースが初めてジャマイカに来た時、自分がスターなのを忘れて「写真を一緒に撮って!」って大騒ぎしたくらい。「Give Me A Reason」もカントリーのメロディーを紹介したいと思ってカヴァーした。
●今回も「No Less Than A Woman」から「You Need Me」あたりがそうですね。この手の曲は前から挑戦してみたかったのでしょうか?
L:自然にああなったの。プロデューサーは私の彼氏(注:キング・ジャミーの長男、ジョン・ジョン)や彼の兄弟、ノエル・アルフォンソ、スライ&ロビー、ローチなどが参加している。あと、今回はセルフ・プロデュースの率も高い。
●ノエルはスカタライツのローランド・アルフォンソの息子さん?
L:そうよ。
●やはり、ジャミーズ・ファミリーは近いんですね。
L:すごく近いわよ。義父母ともすごく仲良いし、弟達も私をすごく慕ってくれてよく一緒に曲を作っている。
●ジョン・ジョンはどれくらい貢献しています?
L:それなりに貢献しているけれど、あれこれうるさく指図して結局、ケンカになるから全部ってワケには行かないの。
●今回、客演を招かなかった理由は?
L:エイコンを予定していたんだけど、彼のスケジュールがクレージーで実現しなかった。彼は全曲コラボのアルバムを予定していて、それは参加するつもり。
●「Chat To Mi Back」が本音爆発、という感じですが。
L:ひそひそうわさ話をする人がに向かって、言いたいことがあればハッキリ言えば、どうせ聞こえているからねって。私と彼のことをあれこれ言ったところで、彼は私が大好きだから、何も出来ないでしょうって言っているのよ。私が2回流産した時、業界内であれこれ心ないことを言う人もいたし。
●今までのキャリアの思い入れのある5曲を選ん下さい。
L:「Scymore Tree」は外せない。デイヴ・ケリーは私のラッキー・チャームね。「Back Shot」もステージで必ずやる。「Give Me The Reason」も思い入れが深い曲。ビーニ・マンとの曲(「Healing」)はクラシックだし…難しいな、昔の曲で声が若すぎたり、今聴くとリリックがラフすぎたりする曲以外は全部好きよ。
●リリックのインスピレーションはどこから?
L:周りの反応からかな。誰かに嫉妬されたら嫉妬について、愛されたら愛についての曲が浮かんでくる。あと、トラックを聴いているうちに考えがまとまることもあるし、日々の出来事も大事。
●最後に、日本のファンに一言お願いします。
L:日本人は礼儀正しいから大好き。そろそろまた行きたいわね。最近、ジャマイカのアーティストが行く機会が減っているみたいだけど、どうなっているのかしらね?
「Walk Out」
Lady Saw
[VP / VP1753]