"Hustlin Ability We Learn Dat A Yard"
 
 ひと昔前はジャマイカで車さえ持ってれば、タクシー転がして生計は十分立ったけど、今じゃ車も溢れ、競争もはげしいのに加えてPPライセンスだのロード・ライセンスだの保険だの車検だの税金だのと、タクシー・ドライバーに課せられる重荷は年々ふえるばかり。

 ジャマイカのタクシーは個人タクシーがほとんどで、キングストンだとタクシー会社と契約して無線つないで乗客を得るチャーター・タクシーと、田舎や下町の方に多いルート・タクシーが存在する。乗用車だけどバスみたいにルートが決まってて、以前ダラタク(一区間1ドルだったの)っていわれたやつね。ラーダの。今や一区間50ドル(約100円)以上よ。

 車を所有してればまだいい方で、雇われドライバーはアガリの中から一日4千円くらいを毎日車のオーナーに払って、ガソリン代も修理費も自分持ち。オーマイ。

 規制も厳しく取り締まりも多くて、ちょっと違反すると罰金や車両取押さえ、逮捕まで。少しでも多く乗客を得ようとスピードあげたが運のつき。タクシー・ドライバーとヒグラーは目につきやすく規制しやすいのか、目の仇にされてるような。とくにこのクリスマス時期、ラット・レース。

 車目当て、少ないアガリ目当てのタクシー強盗は一番の敵で、知らない複数の男なんかストリートで拾えやしない。タクシーなのに、むやみに知らない男は乗せられないなんてさ。殺人の被害者でいちばん多い職業は、ダントツでタクシー・ドライバーであろう。

 ま、それでも日銭になるタクシー業、小金のある家庭の子供の学校送迎やらお使い業、「ストリートのなんでも業(これが俗にハスリング)」をこなしているプライベート・タクシーも多い。

 クリスマス前の上がりモードを妙にあげているのがブジュ・バントンの、「ドライバー」。クリスマスだから金が必要なんだよ感が、ひしひし伝わってくる。ガンジャのデリバリーを依頼した男が、ドライバーに祈るように、ときには脅すように語ってるチューン。「頼むよ、お願いだから。生活かかってんだよ」
Driver, don't stop at all, drop this Arizona round a Alba Mall??アリゾナ(ガンジャの種類)を某所に届けてくれよ。止まるんじゃねえよ。
 小口のガンジャ売買を暗に歌ったこのチューン、ジャマイカ人が聞けばすぐに状況が浮かんできそうな内容で、事情を知る者だけにわかる一体感を生み、麻薬密売人的悪者異臭感はけっして漂ってこない。

Memba, don't carry nuh body a mi yardー死体なんかもう見たくもねえよ。
Soldier mi love and mi nuh respect cowardーソルジャー(この場合は「タフな同志」の意味)でいろよ、臆病な男はいらないぞ。
I deh pon a mission man hustlin hardーハスリングで生きる男の宿命さ。
No ghetto yute should ever suffer and starveーゲットー・ユースだって極貧してるばかりじゃいけないんだ。
Hustlin ability we learn dat a yardーここで、ハスリングで生きてく力を身につけたんだ。
Nuh feel yuh brain big, nuh bodda draw cardー決して過信して裏切るんじゃねえぞ。
Di last bwoy weh try dat dead like dogーそんな奴が犬のように死んだばかりなんだから。

 特別な教育や資格、技能もなくてようやく得られる仕事は、食っていくのがやっとの収入で、一日2千円くらいになる仕事が得られりゃまだラッキー。多くのユースが職を得て生活する術も得られず、今日もストリートにたむろする。ハスリングは彼らの生きる術。切ない「ゲットー・ストーリー」路線のこのチューン、いま、ブジュの声がディープに囁く。Mek sure seh yuh reach, hear mi
 だから、ドライバーに値段交渉もほどほどに、頼むよららまーしー。