ジャマイカの映画館はジャマイカの良さがほのぼのと感じられる場所のひとつで、機会があったら是非行ってみていただきたい。最盛期のようにカンフー映画専門の映画館などはもう存在しなくなったし、放映されるのはアメリカの人気映画ばかりだけど、アイリーなヴァイブスが漂います。
まず、映画開始前に全員起立で国歌斉唱。スプリフを耳に挟むのが似合いそうな強面のおにいさんや、いつもオフィスで私用電話なお姉さんまで、この国歌斉唱タイムになると、何の疑問もなくすっと立ち上がる。映像は決まってオリンピックの金メダル・シーン、あと'98ワールドカップの対日本戦ゴールシューティング・シーン。しつこい。
久しぶりにジャマイカ人によるジャマイカ制作のジャマイカ映画が上映された。『Glory To Gloriana』、監督はTVドラマ『ロイヤルパーム・エステイト』のリトル・レニー・ホワイト。『ロイヤルパーム・エステイト』はもう10年以上も続くローカルのテレビドラマで、ミュージシャンでサーファーのビリー・ミスティックも出演する番組ですね。ビリーは10年前から今も、お母さん思いの、ドレッドやんちゃ息子のキャラでつづけてます。
ジャマイカ映画といえばドラッグ、ドン、ギャング、ガン、バイオレンス、またはラスタかレゲエ。『Glory To Gloriana』はその意味では異色の女性サクセス・ストーリー。ま、ストーリーはこんな感じ。
シーンはジャマイカの観光地、モンティゴベイにある中堅ホテルのオープニング・パーティ。女性オーナーの回顧シーンではじまります。過疎村で生まれ育ち、子供の頃からベビーシッターなどで働かされ、教育の機会もなく、16歳で自分より一回り年上の男の子供を生み、と貧困ライフを歩み、結局7人の子供を生むグロリア。そのたびに映画では強烈なベッドシーンが展開され、映画館は沸き、上品そうなOL風の女性たちも大騒ぎ状態。
この映画、ジャマイカ男はかなりイメージ悪く描かれてしまってます。主役グロリアと結婚するミルトンは、パラサイト(寄生虫)、アビューサー(虐待男)、スウィート・トーク(口では甘いことを言う)の3拍子。働き者のグロリアが、ストラグル(苦心奮闘)しながらようやく得たお金を、肉感的な愛人を囲うために使ってしまい、挙句の果てには愛人の子供(こちらも7人!)の面倒を、グロリアに押し付けてしまう。都合が悪いと「Mi Run Tings(オレが仕切ってるんだ)」と開き直るミルトン。ここまでくると、館内ミルトンに殺意、グロリアにも怒りの言葉爆発。
グロリアが一時期入れ込む田舎のリッチなビジネスマンも、グロリアが彼の浮気現場を押さえ、最終的には彼のもとを去ることになってしまう。その浮気相手をセシールが演じてます。セシールは、リッチで年上の雇い主の身の回りの世話をするメイド役で、雇い主の子供を生むことに喜びを感じる、田舎の若い女、という設定。名演です。グロリアのママが清涼水のように、賢母役を見せ付けてくれるのが救い。
見てて嫌悪感を覚えるほどジャマイカによくある話と人物描写の連射。ミルトンが大病を患ったとき、ミルトンの母親がオベア(黒魔術師)をよぶシーンでは、館内大笑い。って笑うシーンじゃないはずのときに笑うのがジャマイカの観客。一度ミルトンを捨てたのに、また戻ってしまうグロリアに、落胆の大きなためいきが館内中に漏れる。「オベアでも使いなよ」って大きな声でグロリアにアドバイスする観客も。盛り上がる館内。そして映画は突然ぶつっと切れ、何かと思うとブレイク・タイム。断りなしに休憩時間ありの、ジャマイカの映画館です。そして歯切れが悪く無理矢理のラスト。
映画が終わりに近づいてラストがわかってくると、立って帰っていくジャマイカ人続出。ラストシーンを楽しむ間もなく同時に煌々と館内ライトがともり、余韻を楽しむ人などいないのがジャマイカの映画館。なぜかせわしい。
If You Fall, Get Up Again.
面白いのがこれが実話で、モンティゴベイに実在するホテル、「グロリアーナ」ジャマイカ人女性オーナーの半生記です。