Rub-A-Dub-Market
Interview by HIroshi Egaitsu / Photo by Pak Ok Sun
Rub-A-Dub Marketの新作『Extra Standard』が素晴らしい。そして、その周りを巡ると、色々刺激的な人間がいることに気がつく。オルガン・バーのパーティ"Real Step"に集まる連中とか、Ska Flamesのライヴで見かける顔とか。“青山レゲエ”とか呼んでみる? 4、5年前、あの辺りでみんなよく朝まで騒いでたから。
マイケル/おい、急いでくれよ、そのブツを持ってさ。マイケルが車に乗る。もう1人の男が後部座席に座っている。彼もいい身なりをしている。マイケルは小さなレンズをポケットから出して、男に渡す。男/何だ、こりゃ?またクズか? マイケル/違うよ、クズじゃない。それはドイツ製のレンズだぜ。男は注意深く見ている マイケル/いい買い物だよ……船積みが2つあるんだ 男/使えないな マイケル/何言っているんだ?テレスコープ用のやつだぜ、いい代物だよ。男/まず、これはドイツ製じゃない……日本製だ……第2に、これはレンズじゃない、これは??アダプターだ。つまり、お前は船積み2つのジャップ・アダプターをレンズ無しで持ってるってことになるな(彼は笑う) 男はアダプターをマイケルに返す マイケル(失望して)ジャップのアダプター?(『Mean Streets』ファースト・ドラフトより)
「すべて手探り。こういう音楽をやろうとか、“パンク・ロック”をやろうって、それに近づけていくんじゃなくて、自分たちでやろうとしている音楽も(曲が)出来るまで自分たちでも分からない、っていうか」(MAL from Rub-A-Dub Market)
青山から新宿にかけて走るヴァンの後部座席にはZoot16の渡辺俊美が手足を伸ばし、繰り返し、前の座席に声をかけている。
「あいつ、図体がデカイだけでしょ、やっちゃっていいかな?」渡辺俊美が酔っていること、本気でないことは分かっているので、助手席に座っているZoot16のベース・プレイヤー、Shjは適当に生返事をしている。Shjは、プリンス・バスターが初来日した時、“ソルジャーだな、お前は”って言われてる、そういえば。花園神社に着くまでに、あと10分。同乗してるKatchin(Dog Day Afternoon)もYossy(Club Ska)もまだ酔っていない。この2人は、細かく道をドライヴァーに指示する。夜の取り締まりと、道の混雑具合をよく知っている。車に乗っている全員はSka Flamesのライヴを今夜見たかえりで、そのまま家に帰りたくないのだ。
DJの藤井悟が西麻布にあったクラブP/Picassoで“パワー・ハウス”というレゲエ・パーティを始めた辺りまで遡れるのだろうか? 1980年代初めからSka Flamesのライヴに行ってはモッシュしていた松岡徹は、(現U.F.O.の)矢部直と85年にはTool's Barで、スタジオ1のスカや、初期のボブ・マーリィ、リズム&ブルースに“ちょっとすかしてジャズ”をかけたりしていたが、その後藤井悟とピカソでプレイを始める。
「別にサブ・カルチャーとか、アンダーグラウンドとか、斜に構えるつもりもまったくないですし、パーティしたい、踊りたい、っていうのがコンセプトで」(MAL)
その頃の常連の客に今Inkをやっている川辺ヒロシがいて、当時プエルトリカンみたいなハットをいつも被っていた。ちなみに、川辺ヒロシは絶対自分では電話をかけない。誰が他の人間がかけるのだ。また、複数の人間に同時に話はしない。必ず1対1が原則だ。
こうして、同じクラブのDJだったり、客だったり、違うクラブのDJでも、通りが一つ違うだけだったり、自分がDJではない時遊びに行ったりして、好きな音楽が似ている人間が少しずつ集めるようになっていった。
「基本的にダンスホールが入り口。“スレンテン”とか、ダミ声のDJとか」(MAL)
同じ時期のダンス・ホールに魅せられた人間にSly Mongooseを率いる笹沼位吉がいる。彼は今回のRub-A-Dub Marketのアルバムにも参加しているし、渡辺俊美も「Fade Away」を歌っている。“青山レゲエ”という名前は冗談としても、何かに近づくのではなく、自分に近づくための音楽を作る人間が集まっているのは確かだ。
花園神社で誰かが全裸で走っていた。“ポリス・オン・マイ・バック”てな勢いで。