MOOMIN
ADAPT
 
Interview by Naohiro Moro/ Photo by Hiroshi Nirei
 

カヴァーはレゲエ文化には欠かせないファクターだし、僕らはレゲエになった自分のお気に入り曲を探してレコ屋のエサ箱を探ったものだった。本誌読者の中にも、知ってるカヴァーが多く入ったサンチェスのアルバムとかを好んで聞いていたクチ、なんて人は多いのではないだろうか。ムーミンがメジャー・デビュー10周年の区切りに贈る全曲カヴァーによるアルバム『Adapt』は、そんな懐かしさと新鮮さを感じさせてくれる作品だ。

●もっと早くに聞いてみたかったというか、あってもおかしくなかったアルバムですね。今回、初めてのフル・カヴァー・アルバムということで、ムーミンにとって「レゲエによるカヴァー」とはどんなものですか?

Moomin(以下M):レゲエって今じゃあ日本でもメジャーなジャンルとして定着してきてるけど、僕が歌い出した頃とか、まだまだそんなじゃなかったし、シンガーは特にオリジナルの曲を書く前は、とりあえずみんなカヴァーから入ってたじゃないですか。その頃はレゲエにカヴァーされた曲を聞いて、レゲエの良さとか、原曲の良さを感じたりしてたし。ジャマイカ人のするカヴァーの感覚も、お金儲けのためっていうより、みんなで音楽を共有する感じっていうか、とにかく何でもレゲエになったものを聞いてみたい、みたいな……。僕も最初歌い始めた頃はカヴァーから入りましたから、そういう意味では初心に帰った感じもありますね。どうですか、今回のアルバムの印象は?

●カヴァーだっていうことを意識しなくても、既にムーミンの歌になってる。その辺は流石だな、と。歌もバックの演奏も、全体がリラックスした雰囲気に包まれてて、特に生音とムーミンの歌のマッチ感が気持ち良かったな。ホームGプロデュース曲でもそうだし、今回、多くの曲に参加しているノダチンのギターがもたらしてる感触がいいですね。

M:ノダチンは本当、僕にとって一緒にいるだけで心地いい人っていうか、伝え易いんですよね。ツボってあるじゃないですか、こうしたいツボみたいなもの。そいうのをノダチンはすぐ分かってくれる。それと今回は、自分のイメージを伝えるために作るプリ・プロダクションを自分でやっているんで、形にし易かったってのもありましたね。

●あとサイゲンジさんプロデュースの「夏をあきらめて」! カッコいい!

M:サイゲンジさんもいい感じの人なんですよ。あの曲も思い入れがあるし。134号線沿いにパシフィック・ホテルがまだあった頃の茅ヶ崎のイメージですね。今回どの曲をカヴァーするか絞り込むのが大変だったんですよ。やってみたい曲はいくらでもあったし。

●回りが盛り上がっちゃうでしょ(笑)。やっぱアレ歌って欲しい、コレ歌って欲しい、ってね。そうそうムーミンがフル・カヴァー・アルバムって聞いただけで、みんな自分勝手にそう思い始めそう(笑)。

M:そう。でも、ただカラオケのレゲエ・ヴァージョン程度になっちゃうのも面白くないし、こんなやり方もあるんだぞ、こんな曲もレゲエになるんだぞ、みたいな部分を出したかったですね。やってみてまだまだレゲエになるいい曲があるなって思いましたね。むざむざ他人にやられる前に自分でカヴァーしたい(笑)。こういうのなら後2~3枚作っちゃいたいですよ(笑)。今回のアルバムは、何か不思議なタイミングがいくつか訪れて、最終的にフル・カヴァーにしようってことになったんですけど、やってみて、結果、いろんな世代の人に聞いてもらえる作品になったな、って思うんですよ。リラックス出来る音楽としてのレゲエの良さっていうものを多くの人に伝える手段としてのカヴァーの有効性を改めて感じたし、歌っていいなぁ、ってそういうことも改めて感じましたね。普通のビジネスマンみたいな人たちにも聞いてもらいたいな、と思いますよ。

 原作のイメージを踏襲した泉谷しげるの「春夏秋冬」でアルバムは始まる。クリーヴィもコーラスで参加したゴダイゴの「Beautiful Name」、ホームGのナイスな演奏が心地いい井上陽水「リバーサイド・ホテル」、リョウ・ザ・スカイウォーカーとのコンビネーション仕立てになった安全地帯「悲しみにさよなら」、ムーミンの世代ならではのGAO「サヨナラ」、外池満広プロデュースのチューリップ「サボテンの花」の随所にさり気なく散りばめられた、ポップさと対を成すマニアックなフレヴァー、ブラジルな感じがたまらないサザン「夏をあきらめて」、エンディングを飾る「山賊の唄」などいったレゲエになった日本歌謡史に輝く名曲たちに加え、洋楽カヴァーとしては、エルヴィス・コステロの「Alison」や、ヨーヨー・Cのアルバム『Love, Peace & Light』にも収録されている「Modern Girl」日本語ヴァージョンのストレート・ミックス、ボブ・マーリー「Waiting In Vain」、チャック・フェンダーを迎えたヘプトーンズ「Why Did You Leave」など、ムーミンが歌いたかったナイスなレゲエ曲もあり。僕はこのアルバムを桜並木の下で聞いたが、これからの季節なら真夏のビーチはもちろんだが、梅雨に入る前の5月、6月の青い空の下もいいだろう。レゲエの魅力を再確認出来る“Adapt”な感じを楽しんでみるのはいかが?

"Adapt"
[Island / UPCI-1046]
CD Album