Island Express
"A Bandman Show"
Reiko NAGASE SMITH(協力 アイランドツアー)


 

  「チャンピオンズ・イン・アクション」のショーの数日前、西キングストンのゲットー、ティバリガーデンの重要人物の親戚筋が、天敵マチューズレーンのガンマンに射殺された事件は、ダウンタウン地区を騒然とさせた。報復のWarが始まるという噂が流れ、このステージショーが終わるまではピース協定が結ばれた、というもっともらしい噂もあった。

 8月恒例のこのショーは、夏の小スティングともいえる、ラフでタフなイベントだ。サンフェスあたりのショーとはヴァイブスも異なる。なんといってもあの、ジム・ブラウンの、ティバリガーデンの、歴代のドンが主催するショーだもの。A Badman Show. アーティストのノーショーなんて、あり得ない。

 かたやゲイライツ問題、もう一方で地元のWarに絡んでしまったアーティスト、と出演アーティストは渦中のひとばかり。ステージ上での発言も、気になるところ。

 メインのステージはボウンティ・キラーから。明朝早い便で渡米する番長は、恒例の陽の当たる時間ではなくアーリータイムに登場。前週のトリニダッドでのステージにて、バッドワードを使った罪で、当地のポリスにステージを降ろされ、パスポートを取り押さえられた事件があったばかり。ボウンティの罵倒演説は、いつにも増して火の粉が強い。好戦的なステージだったものの、時事的なチューンは避けていると言及。Mi a leave unu fi do fi unu own tin'. と、捨て台詞。

 去年のこのショーは燃やせなかったケイプルトン。今年はダンス・チューン、モア・スマイルで、観客とファイアー殴打にファイアー拳。踊るシャンゴ。アンチ・ゲイバッシングには屈しないと、真っ向から斬り付けた。

 フィフス・エレメントは今どきのトレンド。まとめ役の不死身チャック・フェンダー、静かなアントニー・クルーズ、シンガーの星リッチー・スパイス。女の子の黄色い歓声。そしてフリスコ、ダヴィルとボイスメールの短速ステージのあと、毒牙にかける勢いのクイーン・ポーラに観客は湧き、アントニーBが効果的に燃やす。

 レディ・ソウ。私、食べ物に好き嫌いはないの。と、だんだんマイクの声が小さくなっていき、「なんでも食べるの、実は」と、恥ずかしそうに告白する。「…ブタも」。「こんなこと今まで打ち明けたことなかったんだけど」って。いいことじゃん、好き嫌いなく、なんでも食べるよいこよいこ。つくづくバッドマンは、妙なことにこだわるひとたち。

 全身赤で登場の、ラスのイケメン、スプラガ。ダンカーク(イーストキングストン地区)出身。アサシンも出て、今一番脱がせたい男の同時ステージ。期待通り。Yuh see it.

 ダダ。シズラカランジ。渦中のひと。ダダの住むオーガストタウンは今、Warのまっ最中でファンが気を揉むところである。

 朝6時の陽と共に、全身白のビーニが登場。この日にバースデーを迎えたビーニは、ゲイライツ問題のプレッシャーなど感じられないほど好調なステージ。同胞タント・メトロ&デボンテをステージに上げたあと、同日オラカベッサ(ジャマイカ北海岸)のショーでステージが予定されているアメリカのシンガー、Eamonをよび、ほんのLikkle Piece歌わせて、聴きたかったらオラカベッサ来てね。。。ご機嫌のビーニはヴァイブス・カーテルをステージによび、カーテルだけをもっと聴きたいジャマイカの観衆を怒らせる。会場の、特にテンスの激しいステージ前は、早くからカーテル・ファンの若者や子供たちが待ち構えている。エリが会場に到着したことをMCが告げると、観客はますます冷たくなって、ついにビーニに「ソーリー」を言わせて退場させた。

 陽の当たるステージのトリ、今回はエリ。あの衣装は夜見たかった。

 映画でも、ラストシーンで結末がわかると、立って映画館を出てしまう人が多い。ジャマイカ人。誰も最後のクレジットを楽しんだり、余韻を味わったりはしない。ショーも同じで、駐車場混雑の恐れもあるから、エリなのにほとんどの客が帰ってしまう。ショーはアクシデント・フリーで楽しく終わり、車まで歩くカーテルのあとを、10代のファンがぞろぞろとつづいた。

 その後もしばらく緊迫ムードの西キングストンだったが、マチューズレーンのドン、ジークスが、ラジオやテレビのインタビューに出てピース宣言をし、この騒動はおさまった。

 チャンピオンズ・イン・アクション。毎年8月中旬から後半に行われるワンナイト・ショー。キングストン近郊で開催。今年はポートモア地区のケイマナス・ポロクラブにて。セキュリティはタイト。このイベントも確実にBigger an' better. Seen.


Text and Illustration by Reiko NAGASE SMITH
ext and Illustration by Reiko NAGASE SMITH
Ricoのジャマイカ★ArtLife:http://www.ricoart.com
協力/アイランドツアー:http://www.islandtour.jp