レゲ絵 第16回
リコ・ロドリゲス
Painted by Yagi / Text by Noboru Yamana
エチオピアの王の行列の末尾に加わることを許された、大きな長いラッパを吹く男。しかし、その表情は、確かに光栄だと思ってはいるだろうけれど、どこか暗い。どの国にいても、あるいはどの街にいても、最終的には似合っていない男の所在なげな顔。仕方がない、彼は逃亡者だもの。故郷を去った、もしくは故国を追われた、自由な逃亡者だもの。
その頃彼はイングランドに住んでいた。厳しい規制のある国だ。海外からの音楽家の流入にも、当然ながらいい顔をしない。ジャズマンやブルーズマンたちが、50年代から、ここで吹き込む時は、当地の、イギリス人のバックアップ・ミュージシャンを使わなければならない、という音楽家協会の規定すらあるのだ。彼の顔立ちや肌の色や名前から、お前は一体何者なのだ、と会う人ごとにいぶかしげに尋ねられただろう。僕も聞いた。実は目立ってしまう逃亡者。彼は答える、いやただのジャメイカンだと。何年か経って、少しだけ本当のことがわかった。お母様はプエルトリカンだったらしい。すなわち、彼の世代から始まったのではない。逃亡者をやっているのは彼の、少なくとももう一つ上の世代からなのだ!
国にも郷里にも、自分の血にさえも、プライドはあるが依存はしない。教区の名簿からもとうに抹殺された。彼が抱きしめるのは「自由」だけ。それが「孤独」と同義語であると、随分前から気付いてはいたけれど。