Takayoshi Matsunaga
BASS IS NOT JUST A BASE
Text by Shizuo "EC" Ishii / Photo by ayako (HaLo) http://www.five-d.co.jp/HaLo
前号でお伝えした松永孝義ソロ・アルバムは目下のところ着々と進行中。そこで「音楽なんてものは空気の振動なんだから良く分らないな」と言う、このプロジェクトの言い出しっぺである石井志津男が、支離滅裂な想いを語る。
漠とした言い方だが、”大人の音楽”を作ってみたい、そんな衝動にかられて、時々、と言っても数年に一度だったり10年に一度だったりと気紛れだが、そんな病の久々の犠牲者に声をかけた。その制作中のアルバムが松永孝義のソロ。46歳にしてデヴュー盤、そうファーストである。
音楽の土台であるリズムとベース。「Bass Is Not Just A Base」 、だが低音は単なる土台ではない!グルーヴのあるベーシストの第一人者が松永かも知れない。前号の本誌の記事で彼について書いてくれた尊敬する音楽評論家である高橋健太郎氏の「静かで重いが、強烈にロックする。一緒に演奏しているミュージシャンはさぞかし気持ちいいだろうなあ」という一文には、まさにと膝を打たずにはいられない。
音楽は年齢を選ばないし、人種も肌の色も言葉も楽器も方法論さえ選ばずボーダレスに聴けるし演奏できるものだ。オレのようにへそが横についてる人間は、イイものに出会うと他人には聴かせたく無いということさえある。このアルバムのために松永が招集したミュージシャン達が集まり都内のスタジオでレコーディング前のリハをやっている所をそ~っと覗きに行った。
つきあいはMute Beatのメンバーだった時からだから20年近いが、松永がカウントをとる姿を見たのは今回が初めてだった。オレはたったこれだけで感動した。
そこに揃った何人かはお互いに顔見知りではなかったようだが、実力は鬼である。素晴らしいセンスの持ち主達がひとたび音を出せばお互いのキャリアを感じ取る。彼等は一見すると和やかだが緊張感を保ちつつ相手のくり出す音を探りながらイイ~雰囲気の音を出していた。1分も経たずにオレは、そこにいるのが恥ずかしくなってしまった。なぜっ?…目から汗が出るし鼻水もだらだら。目の前はぼ~っとして、脱力して体が動かない。スケボーで足首のじん帯3本切ってぶらぶらな時も、ハゲ頭をコンクリに打ち付けてヌル~っと暖っかい血が吹き出した時だって「毛が(怪我)なくて良かったな」と笑いをとったオレだったのに、その曲が終わるや、そ~っと控え室に移り「今年のカゼは目にくる」と鼻水を拭きながら「ア~、もう他の人に聴かせたくねえなぁ」とつぶやいたら、誰かが「聴かせなきゃ、売れないね」だと・・・。
もはや世界中には名曲が溢れて、今更新しく創らなくてもいいくらい存在する。だが、まがりなりに音楽を創る所に身を置いているオレとしては、買っているだけでは情けない。たまには創らなくては、そう、たまには。皆さんがGoogleで松永孝義を検索してほしい。英語もいれたら1,000を超えるヒットがあるはずだ。
「そろそろ、ソロはどうよ?」と声をかけたのが02年の10月くらい。「えーっ、ソロー?」から3年越しの大河企画なのだが、始まったらあっという間に終わろうとしている。で、寡黙でシャイな松永が自ら付けたタイトルが『The Main Man』。レコーディング中にライヴのアイディアも出た。この噂を聞きつけたヤン富田さんが発売前だというのにチケットを予約してきた。前号の広告を見て遠方から観に来たいなどとのたまう輩もいたりする。確かにこんな豪華で多忙なメンツが集まってもう一度ライヴをやるなんて難しい。どうやら、松永君もついに後に引けなくなってきたなぁ。ふふふ。