Dub No Dead
Chap.12- Scientist
Text by Koya Suzuki / Photo by Beth Lesser
電気工作が得意だった少年、ホープトン・オーヴァートン・ブラウンがミキシング・エンジニア“サイエンティスト”に変身していく成功譚が好きだ。16歳のホープトン君はタビーズ・スタジオが放出したトランスなどの電気部品を、自作アンプに転用するために買いに行き、そこで遭遇したタビーにこういうのだ。「僕はあなたのミックスが好きです。あなたの音は、アンプのパフォーマンスを調べるのに適してるんですよ」と。
その後少年が機材の修理係としてタビーに雇われるくだりや、既にタビーズで働いていたジャミーの休暇中に初めてミックスする機会を与えられたといった、楽しいエピソード満載なのが1)の裏ジャケ。もちろん書いてるのはスティーヴ・バロウ。で、この①の中身こそがサイエンティスト最初期、17歳(77年)頃のタビーズでの仕事だ。プロデュースはエロル“ドン”メイス。ジャー・バイブルの名で自身もマイクを握り、ルーツ・トラディション・レーベルを興した彼こそがサイエンティストを最初にエンジニアに起用した人物。演奏はソウル・シンジケート&グレゴリー・アイザックスが命名前のルーツ・ラディクスで、Bobby Babylon、M16、 Pick Up The Pieces、Ain't No Sunshineなど、連発するナイス・リディムをゴツゴツした猛々しいミックスで楽しめる。ソースはバロウ氏も特定していないがアール・ゼロ、フィリップ・フレイザー、トーヤンあたりのようだ。
(2)はジャケットからして愉快で雰囲気がいい。プロデュースはブラッド・オズボーン、つまりクロックタワー音源で、ジャッキー・ミットゥー『The Keyboard Legend』から「Drum Song」「Darker Shade Of Black」の再演が使われていたり、ジョニー・クラークの名作『Originally Mr. Clark』からヴォーカルをたっぷり残して数曲使われている。ミックス於タビーズ。ブッ飛ぶような派手さはないが、音の奥行き、深さ、バランスのセンスが見事だ。
(3)はロイ・カズンズのプロデュース音源、スライ&ロビーとラディクスでチャンネル・ワン録音。「Pick Up The Pieces」のロイヤルズのカズンズだが、彼はグループからザ・ジェイズが分派してしばらく後の80年以降に英国に移住、他人のプロデュースに力を入れていく。この音はその時期の録音で、従ってこのダブのソースはコーネル・キャンベル、アール16、プリンス・ファー・ライ、ドン・カルロス、チャーリー・チャップリン、ウェイン・ジャレットあたりだろう。(2)も(3)もリリースは81年だが、(2)はサイエンティストが79年後半にチャンネル・ワンの専属エンジニアになる前の録音。それに対して(3)はそれ以降の録音&ミックスで、リヴァーブ、ディレイ、効果音の感触も完全に80年代風。
さて、チャンネル・ワン録音、バンドはルーツ・ラディクスでミックスがサイエンティストという布陣のダンスホール・サウンドで成功したプロデューサーといえば、もちろんリンヴァル・トンプソンとヘンリー“ジョンジョ”ロウズ。
まずリンヴァル・トンプソン音源のダブなら、本人の『Look How Me Sexy』、フレディ・マクレガー『Big Ship』、バーリントン・リーヴィ『Poorman Style』などが元ネタの『Scientist and Jammy Strike Back!』なんていうトロージャン盤が定盤だが、タビー塾の兄弟子ジャミーに7曲譲り、サイエンティストの仕事は3曲のみ。そこで(4)の『Scientist In Dub Vol.1』、ミックス於タビーズ。このジャケットの絵には「 81」と記載されているが、これを描いたスミス画伯が同じくジャケを手がけたジャー・ガイダンス盤で、他のc81作品といえば名作ジョニー・オズボーンの『Night Fall』。ズバリこの4.はその『Night Fall』の「Kiss Somebody」で幕が開く。同じくゥ81盤のウェリング・ソウルズ『Wailing』から「Who No Waan Come」もネタとして確認できたが、この2曲は同じ81年にグリーンスリーヴスから出た『Scientist Meets The Space Invaders』で別ミックスが聴ける。他にホレス・アンディも最低2曲使われていることが声で分かるこの(4)に、過激なのにステディなサイエンティストの真価を見る。Vol.1というが、Vol.2は見た憶えがない。
で、とうの昔にプロデュース業を廃業、不動産屋のオヤジとなったリンヴァル・トンプソンだが、ブラッド&ファイアー・サウンドシステムに駆り出され、最近Uブラウン、ジャー・トーマスと一緒にヨーロッパをツアーしていた。
そして最もサイエンティストを偏愛した男、99年にロンドンで射殺されたヘンリー“ジョンジョ”ロウズ。その“ジョンジョ”ロウズとL.トンプソンの音源で、一連の漫画ジャケを使ったサイエンティスト名義のダブ・シリーズがグリーンスリーヴスから出てヒットしたが、(5)がその最初期の1枚。品番はGrel13。10番にジャミーとのVSものがあるが、サイエンティストのソロ名義作はこの13番から始まり、5作ほど続く。
裏ジャケには、“へヴィー級ダブ王者”サイエンティストが“ジョンジョ”から祝福される写真まで載っているが、この頃ダブ化学者、錬金術師とも名乗るようになっていたサイエンティストの人気と信頼は、相当の高みに至っていたはずだ。この(5)はバーリントン・リーヴィ『Robin Hood』丸ごとのダブ(ミックス於タビーズ)だが、品番でみるとダブ・アルバムの方が先で、オリジナル・アルバムが14番なのである。2枚同時リリースだったにせよ、この順番はサイエンティストの方が役者が上だったことの証左かも。
チャンネル・ワンの後、短期間タフ・ゴングで仕事し、85年に渡米したサイエンティスト。今もそれなりに活動中で、まだ42歳。