AUGUSTUS PABLO
Dub No Dead
Text by Haruyasu Big 'H' Kudoh / Photo by Shizuo "EC" Ishii
今回登場するダブ・マスターは、日本でも人気の高いピアニカ奏者、そしてプロデューサーとして数々の名作を世に送り出したオーガスタス・パブロの登場。86年に初来日した際、インタビューを行った工藤 BIG 'H' 晴康が彼の魅力を語る。
さて、少しばかり想像をたくましくしてみよう。時は70年代中頃、場所はキングストン、ドランミリ通りの18番地。スタジオ内のミキシング卓の前にはキング・タビーが座り、その手元を真剣な表情で見守っているのがオーガスタス・パブロ。このふたりはこれまでも数々のダブ・ミックスを共同制作せてきたのだが、今回は特に、タビーがついに手に入れたエコーを駆使するという実験的な試みがなされる予定なのだ。ダブの誕生したごく初期の時点で、いわゆる残響効果としてのリヴァーブは使われていた。いやむしろ、タビーの真骨頂がこのリヴァーブ処理にあるといってもいい。しかし、さらなる進化を求めて彼らは当然のようにエコーという新しいイフェクトに手をのばしたのだ。パブロが用意したテープには、ジェイコブ・ミラーの「ベイビー・アイ・ラヴ・ユー・ソウ」が録音されている。いよいよテープが回り始めた。タイトでスピード感あふれるドラム&ベースに乗って、現れては消え去るメロディカ、ヴォーカル…。新しい武器=エコーの効果はまさしく強力だった。彼らはこのダブ・ミックスが後に『キング・タビーズ・ミーツ・ロッカーズ・アップタウン』とタイトルされ、大ヒットすることを知る由もない。
オーガスタス・パブロ。本名ホレス・スワビィ。53年セント・アンドリュー生まれ。ご存知のように、99年重症性筋無力症という難病で、惜しくもこの世を去っている。生前の彼については、その神秘性ばかりに注目が集まっていた感があるが、このところの評価がダブ・プロデューサーとしてのパブロに向かいつつあるのは正しい。彼のレコーディング・キャリアは69年、16歳の年に始まる。レスリー・コングの従兄弟であるハーマン・チン・ロイがその最初の機会を与えたわけだが、オーガスタス・パブロという名前も、ハーマンが勝手にクレジットしたものらしい。そのデビュー曲「イギィ・イギィ」や、後に代表作となる「イースト・オブ・リヴァー・ナイル」の初録音等、パブロの最初期の演奏が『ザ・レッド・シー』に集められているが、中でも「…アップタウン」のプロトタイプともいえる「アイ・マン」が単純に抜き差しのみのミックスである点に注意すべきだろう。そして、キングストン・カレッジのスクール・メイトだったクライヴ・チンがプロデュースしたのが71年の「ジャヴァ」だ。パブロの″ファー・イースト・サウンド″を広く知らしめた曲として特に有名だが、後のデビュー・アルバムといわれる『ディス・イズ・オーガスタス・パブロ』も含めて、ダブ色が濃いとはいえない。
ダブ的な音処理がグッと深まるのは、やはりパブロ自身のプロダクションを興す72年以降である。″ロッカーズ″という名は、彼の兄のガース・スワビィが運営していたサウンド・システムにちなんでつけられたそうだが、このダブへつき進むきっかけとして出会ってしまったのが、そう、キング・タビー…。
●あなたにとって、キング・タビーとはどんな人なんですか?
「エンジニア、テクニシャン、サイエンティスト、ジャマイカのアンダーグラウンドな音楽を初めて世の中に紹介した人物。アンプにイコライザー、何でも自分で作ってしまう。日本で作られている機材と同じようなのを、彼はジャマイカで作っていたんだ。4トラックの小さなスタジオを作った時、私はそこで一緒に働きながら、彼からミキシング・ボードの使い方を習った」
●それはいつ頃のことですか?
「タビーと最初に会ったのは71年頃。それ以来、いろいろなアルバムを作って来た」
このインタビューは、86年パブロの初来日の際に行われたもの(この時に実現したミュート・ビートとのセッションが『スティル・エコー』に収録されている)。タビーについて語った数少ない発言のひとつだと思うが、とにかく彼らはダブへどんどん深入りしていくのだった。そんな実験の数々、72年から75年にかけてのシングルを集めたのが『オリジナル・ロッカーズ』である。
またインタビューを続ける。
「実は『…アップタウン』は自分自身でプロデュースした一番最初のもの。デビュー・アルバムという意味では『ディス・イズ…』ってことになるけど、本当にやりたいことを思い通りに作ろうとしたのが、このダブ・アルバムさ。私はこの頃特にスタジオ・ワークが大好きだった。レコードにはならなかったけど、キング・タビーと一緒に実験的なことをいろいろしていたんだ。今でも自分の小さなスタジオで、同じようなことを続けているよ」
ダブ・アルバム史上に輝く最高傑作『…アップタウン』については、もう説明する必要はないだろう。リリースされてからすでに25年あまりの時を経た現在でも、これを超えるものはないと思う。その証拠というか、このアルバムがいかに重要であるかを証明するような編集ものが、去年発売され話題となった。エイドリアン・シャーウッドのプレッシャー・サウンズから出た『エル・ロッカーズ』である。内容的には『…アップタウン』とその周辺の別テイク、別ミックス集であり、それまでウワサでしかなかったような幻の録音も含まれている。言ってみれば番外編というところだが、これを聴いた後で本編を聴くと、またその凄さがわかるというシカケ。
最初のアルバムで最高傑作をものにしてしまったパブロは、その後『イースト・オブ・ザ・リヴァー・ナイル』(78年)でダブ・インストとでも呼びたい、独自の境地に至るわけだが、他のアーティストのプロデュースにも積極的に乗り出す。その一環として数々のダブ・アルバムがリリースされた中で、ヒュー・マンデルの『アフリカ・マスト・ビー・フリー・バイ1983』のダブ、そしてエヴァートン・ダ・シルヴァをプロデューサーとするハングリー・タウン・レーベルから出た、ホレス・アンディの『イン・ザ・ライト・ダブ』あたりは必聴(どちらも79年)。久しぶりにタビーと組んだ『ロッカーズ・ミーツ・キング・タビーズ・インナ・ファイア・ハウス』(80年)は、派手さには欠けるもののタビーのミックスが味わい深い。
ここに書いたアルバム以外にも、聴くべきものはたくさんあるが、パブロのダブを楽しむ上でどうしても必要と思われるアイテムを選んでみたんだけど…。80年代に入り、パブロもデジタルの洗礼を受けることになるのだが、そこからはまた別の話だね。
(1) "This is Augustus Pablo"
Augustus Pablo
[Above Rock Records]
(2) "King Tubbys Meets Rockers Uptown"
Augustus Pablo
[Rockers]
(3) "Original Rockers"
Augustus Pablo
[Rockers]
(4) "East Of The River Nile"
Augustus Pablo
[Rockers]
(5) "Still Echo"
Mute Beat
[OVERHEAT /OVE-0024]